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2009年5月18日 (月)

統計に対する認識 

経済学部 小沼 博義 教授

経済学や経営学では,講義や利用テキストの中に,必ず統計(一般にはデータと言われる)が引用されることは,皆さん経験されていることでしょう。統計とは,社会の出来事を数字で表したものです。私たちは,数字で表されたものは正確であると思い勝ちですが,経済学や経営学の分野を含む社会の出来事を表す統計は,正確さよりも分かりやすさに重点がおかれているのです。

例えば,皆さんが健康診断を受けるとき,身長や体重の測定も行われます。そして,身長は173.4cm,体重は67.8kgといった結果を知らされます。この結果は,あなたの日常生活の中で役立つことがあるでしょうか。洋服を買う場合に,身長が173.4cm,体重は67.8kgの体に合ったものを指定して買う人はいません。LMSといったサイズを目安にしたり,Y体,A対,AB対という表示から好みの服を選んだりするはずです。洋服のメーカーにとっても,細かい身長や体重などに合わせて生産することになれば,大量生産して良い品を安く提供することはできなくなってしまいます。つまり,おおよその体のサイズが分かれば十分なのです。

他人に自分の身長や体重を正確に伝えるときも,小数点以下の数字を言っても,相手はすぐ忘れてしまいますから,175cm弱で約70kgと言ったほうが,相手もわかりやすいはずです。その他のどのような機会にも,身長の173.4cmと体重の67.8kgという小数点がついた数字を活用できる場はないのです。経済や経営に関しては,金額表示の統計が使われますが,金額も額が大きくなると,一円単位までの細かな数字よりも,億単位や兆単位にした額のほうがわかりやすいため,利用されることも,身長や体重と同様な説明ができます。

さらに,統計には,時間や場所に制約されるという性質があります。身長や体重について,日本人男性あるいは女性の1950年の統計は,1950年という時の日本の社会環境の中で生活していた人々の数字であり,2009年の統計は,2009年という時の日本の社会環境の中で生活している人々の数字です。両年の社会環境は著しく異なっているはずです。それなのに,単純に両者を比較して,その差を強調することに,どれほどの意義があるでしょうか。また日本という場所に住む人々の身長や体重といっても,1950年の統計には沖縄が含まれないのに対して,2009年には含まれているとしたら,やはり単純な比較ができないことは明白です。経済や経営の規模などの統計を,異なる年で比較するときも,同様な注意が必要となるのです。

経済学や経営学の分野では,緻密な数式モデルを展開することが行われますが,モデルの推計に使われる統計には,上で述べたような特性があることを十分に認識しなければなりません。自然科学の分野で法則と呼ばれる中で展開されるモデルのように,正確に時間と場所を超越して成り立つモデルを,経済学や経営学の分野で作ることは不可能なのです。時間と場所に限定されたモデルから,社会で起きていた経済や経営の事実を見つけ,もしそれが有意義なことであれば,統計は使命を十分果たしたことになるのです。