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2009年6月15日 (月)

2020年に向けた日本の温暖化対策

経済学部 武田史郎 准教授

はじめに

ニュースで報道されていましたので,既に御存知の人も多いと思いますが,610日に麻生総理大臣が今後の日本の温暖化対策の方針を発表しました.「2020年までに日本の温室効果ガスの排出量を2005年比で15%削減」というような見出しになっていたかと思います.今回はこのニュースについて話したいと思います.

現在の状況

現在,日本は「京都議定書」の履行をせまられています.京都議定書とは温暖化対策のために世界各国が参加している取り決めです.具体的には,先進国を中心とした国々に対し,地球温暖化の原因とされている「温室効果ガス(二酸化炭素等)」の排出量を削減する義務を負わせるというものです.この削減義務を実行しなければいけない期間が2008年-2012年であり,日本は90年の排出量比で6%の削減をおこなわなければならないという義務を負っています.

90年比で6%の削減」とは,1990年の温室効果ガス排出量の94%の値まで削減しなければならないということを意味しています.例えば,1990年の排出量が100トンなら,2008年-2012年の間に94トンまで減らすということです.

この京都議定書の削減目標をどのように達成するかが現在の日本の課題の一つとなっているのですが,さらに新たな課題が浮び上ってきています.それは,京都議定書以後,つまり2013年以降の温暖化対策をどうするかという問題です.

京都議定書以後

今年の12月に開催されるCOP15という国際会議で,この京都議定書以後の世界の温暖化対策について議論がおこなわれる予定ですが,それに先駆けて日本政府は,日本の温暖化対策の方針を決定しておくということになりました.具体的には,日本の温室効果ガスの排出量を2020年までにどれだけ減らすか目標を決定するというものです.2020年までという中期的な目標であるため,「温室効果ガス削減の中期目標」と呼ばれています.この中期目標決定のために昨年末に「中期目標検討委員会」というものが政府の下に設立され,様々な検討がおこなわれてきました.

中期目標検討委員会

中期目標検討委員会で議論されたことの一つに「温室効果ガス削減の経済・社会への影響」というテーマがあります.なぜ,「経済・社会への影響」ということが関わってくるのでしょうか?それは以下のような理由です.

温暖化は温室効果ガスの排出量の増加に原因があるとされていますが,その温室効果ガスの代表的なものは二酸化炭素 (CO2) です.そのCO2がどこから排出されているかというと、その大部分は「化石燃料の利用」からです.つまり,石油,石炭,ガス等の化石燃料の利用が温暖化の主な原因ということになります.

日本が温暖化対策をとろうと思ったとします.温暖化の原因は化石燃料の利用にありますから,温暖化対策とは結局化石燃料の利用を抑制・減少させるということになります.実際,化石燃料の利用を減らそうとしたら何が起こるでしょう?これは化石燃料が何に利用されているか考えたらすぐわかると思います.

化石燃料は例えば発電に利用されています.鉄の生産にも利用されています.化学製品や紙などの生産,旅客,運輸等の輸送サービスにも利用されています.さらに,生産活動だけではなく,家庭での消費活動でも利用されています.自家用車,湯沸し器,厨房,暖房器具等です.

化石燃料の利用を削減するとは,結局以上のような生産・消費活動を抑制するということに他なりません.ここで,温暖化問題に詳しい人なら,生産・消費活動を抑制しなくても,エネルギー利用を減らせるのではないかと考える人がいるかもしれません.例えば,多くの人が車をプリウスやインサイトのようなハイブリッドカーに買い替えれば,これまでと同じように車を利用しつつ (消費活動をしつつ) ガソリンの利用を減らせるのではないかということです.しかし,ハイブリッドカーはまだ普通のガソリン車と比べると値段は高いですよね.値段が高いものを買うのなら,他の消費を減らさないといけません.結局はどこかで消費や生産が減らざるを得ません.

以上のような理由から,温暖化対策は経済活動に対しマイナスの (景気を悪くする) 効果を持つと考えられています.そこで,中期目標決定にあたり中期目標検討委員会では,温室効果ガスをどれだけ減らすとどれだけ経済に影響が出るかを様々なシミュレーションによって分析しました.

このシミュレーションの結果の一部を紹介しますと,まず,「2005年比14%の削減」という,それほど削減幅の大きくないシナリオでは,経済への影響は

GDP 2020年時点で 0.6% の減少

・失業率は 0.2% の悪化,

・家計の可処分所得は4万円の減少

となるという結果が出ました.

一方,「2005年比30%の削減」という削減量が大きい (つまり,もっと積極的に温暖化対策をおこなう) シナリオでは

GDP 2020年時点で 3.2% の減少

・失業率は 1.3% の悪化,

・家計の可処分所得は22万円の減少

と経済への影響はかなり大きくなります.

この結果をどう捉えるかは人それぞれだと思います.例えば,所得の4万円の減少を非常に重い負担と考える人もいるでしょうし,逆に 22万円の減少でも積極的な温暖化対策のためなら負担してもよいと考える人もいるでしょう (みなさんはどちらでしょう?)

政府がこの結果をもとに国民にアンケート調査をおこなったところ,「2005年比14%の削減」というシナリオがよいという人が全体の45%で一番多いという結果となりました.ちなみに,二番目のシナリオがよいという人はたった 4.9% でした.

このアンケートの結果等も考慮し,麻生総理大臣が最終的に決定した方針が,今回のニュースで報じられた「2005年比で15%という目標」です.

今後の課題

国民のアンケートで一番支持が多かった選択肢と同じものが選らばれたということで (ただし,麻生総理は1%上乗せしていますが),国民の意向に添った決定だったと言えるかもしれません.しかし,温暖化対策として不十分だという主張をおこなう人も数多くいます.実際,温暖化から被害を受けるとすればそれは将来の世代ですから,現在の国民が賛成したからといって,それが将来の世代も考慮した意味で公平な政策とは限りません.特に,現在の世代に自分のことばかりを考える人が多いとしたら,現在の世代が賛成する政策が将来の世代に著しく不利な政策ともなりかねません.

当面の日本の温暖化対策の大きな方針は決まりましたが,温暖化問題は今後も重要な政策課題の一つとなると思います.今年末のCOP15でどのような決定がされるか注目していてください.