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2009年10月 1日 (木)

合同会社制度の利用状況

合同会社制度の利用状況

法学部教授 吉井 溥

  合同会社は、平成1851日に施行された会社法によって創設された新しい会社類型である。会社法は、それまでの合名会社、合資会社に加えて、新たに合同会社制度を設け、三社を合わせて持分会社とした。合同会社の名称については、条文化作業の段階になって、合名会社および合資会社と同じ規律が適用される持分会社の一つである点を考慮して、「合」で始まり「会社」で終わる名称を考え、「同」の文字が選ばれたと説明されている。合同会社の社員は外部関係では社員全員がその出資を限度とする有限責任のみを負う。内部関係については、民法上の組合と同様の規律すなわち原則として社員全員の一致で定款変更その他会社のあり方の決定が行われ、各社員が自ら会社業務の執行に当たるという規律が適用される。すべての社員が有限責任という点では、合同会社は株式会社と同様であるが、株式会社では内部関係の規律が強行規定性をもち、株主総会や取締役等の機関が必置とされ、株主の権利内容も原則として平等原則が適用される。合同会社では広く契約自由の原則による設計が認められ、定款自治に委ねられており、設立の手続が簡単で配当に関しても定款の定めにより知恵やノウハウにより会社の利益増収に貢献した社員に有利な利益配当をすることもできる。

  アメリカにおいて、1977年ワイオミング州が企業誘致のため有限責任会社(limited liability company:LLC)制度を法制化した。LLCは当初あまり利用されなかったが、1996年、連邦税に関し、チェック・ザ・ボックス規制(check-the-box-regulation)が導入され、コーポレーションそのものを課税主体とする事業体課税をとるか、構成員課税をとるかの選択権が納税者側に与えられた。後者を選択すると構成員のみ課税の対象とされ、企業自体は課税主体でなくなる(パス・スルー課税)。これを契機にLLCは爆発的に利用されるようになり、今ではアメリカ全州がこの制度を採用し、最近10年間で約80万社が設立された。合同会社はこれにならったものであり、日本版LLCと呼ばれることもある。

  近年わが国でもハイリスク・ハイリターン型のベンチャー企業が増大していく中で、企業の競争力の源が物的資源から人的資源に移りつつある。この傾向の下で、起業を効率よく行うための一つの方法として日本版LLC制度の採用方が経団連をはじめとして各方面から要望されるようになった。そして、税務上の取り扱いについても経済界はアメリカと同様のパス・スルー課税の導入を望んだが、税務当局から法人格がある以上LLCには法人税を適用する予定との見解が示された。ところで、経済産業省では平成1511月に産業組織課が「人的資源を活用する新しい組織形態に関する提案―日本版LLC制度の創設に向けて」とする報告書により合同会社制度の新設を提案していた。しかし、上記国税当局の見解によれば合同会社では法人税と出資者への課税という二重課税になるとして、同省は、急きょ有限責任事業組合制度に関する研究会を立ち上げ、その取りまとめを踏まえて、民法上の組合制度の特例として有限責任事業組合制度の創設を立案した。これは最近のイギリスにみられる有限責任組合(limited liability partnership:LLP2000年に制度化され、約3年間で1万社にのぼる利用があったと報告されている)をモデルとしたものである。平成17年「有限責任事業組合契約に関する法律」として成立し、合同会社より早く、同年8月1日に施行された。

  法務省所管のLLCと経済産業省所管のLLPはいずれも内部規律は契約自由の原則による組合であり、対外的に構成員の責任は有限責任とされる点で制度的に極めて類似したものであって、縦割り行政の悪い側面が現われた例といえるとの指摘もみられる。両者の主な相違点は、LLCは法人自体に課税され、かつ構成員にも配当課税がなされるが、LLPは課税は組合員に対してのみなされるということである。

  企業活動に対する規制は、産業政策は経済産業省、金融商品取引法は内閣府・金融庁、会社法は法務省、税法は財務省・国税庁の管轄である。相互の整合性ある規律が要求される。

  実務上、LLCLLPのいずれを選ぶのが適切かについては、さまざまな点を比較してその長短が検討されるが、LLPには法人課税がない点はかなりの魅力になるといわれる。その選択の現状はどうであろうか。

  有限責任組合は法人ではないが、事務所の所在地を管轄する法務局で登記をすることを必要とする。ただし、会社と異なり成立要件ではなく、LLP契約の効力発生後2週間以内に登記することを要するとされる(違反すると100万円以下の過料)。したがって、その数は正確に把握される。経済産業省が平成216月に公表したところによると、平成2012月末の組合契約の延べ数は3,405件である。同省政策局産業組織課に電話で問い合わせたが、それ以後の数は9月末の時点ではまだ掌握していないとのことであった。

  合同会社の利用状況はどうか。公表された最近のものがないので、担当の法務省司法法制部民事統計課に電話で問い合わせたところ、平成217月末現在で合同会社総数は約17,000社である。因みに合名会社約18000社、合資会社約84,000社。株式会社約3,240,000社(うち特例有限会社約1,800,000社、特例有限会社については、本eSqaureニュース解説(07/12/05)掲載の吉井解説「有限会社はどうなっているか」を参照されたい)である。

  なお、合同会社の中には、平成203月末現在、資本金10億円以上の大会社が2社、資本金1億円以上10億円未満のものが44社ある(法務省司法法制部「組織別・資本別法人数」)。大企業は数多くの子会社を擁しているが、その子会社が特例有限会社という場合が少なくない(国税庁の財務統計(平成17年分)によれば、有限会社でも資本金10億円以上のものが38社、1億円以上10億円未満のものが891社も存在する)。特例有限会社は大会社(会社法26号)であっても会計監査人の設置が義務づけられないからである。新会社法の下では、有限会社の新設はありえず、子会社を合同会社とすれば、資本金が大会社に該当しても会計監査人の設置義務は免れる。その意図で子会社を合同会社とした例も見受けられる。このような合同会社制度の利用もありうるのかと、制度利用の実務にはまことに興味深いものがある。