フロスト VS ニクソン
経済学部 伊藤 栄晃教授
今年もまたディベート大会のシーズンがやってきました。柴田学長時代に学長の強いリーダーシップの下で開始されたこの大会も、今では秋の関東学園のイヴェントとしてすっかり定着しました。論題のレヴェルも当初と比べると格段に上がりました。これは大会の成果が着実に蓄積されていることを意味し喜ばしいことですが、全学的な盛り上がりのためにはさらに一工夫が必要かも知れません。
丁度よいタイミングでトーク・バトルの醍醐味を十分に堪能させてくれるDVDを視聴しましたので、紹介します。2008年アメリカ映画「フロストVSニクソン」です。既にご覧になった人もいるでしょうが、まだの人には試聴をお勧めします。
これは1977年に行われたイギリスの司会者デヴィッド・フロストによる前米大統領リチャード・ニクソンへのインタヴュー番組を題材にした映画です。ニクソンは、1972年のウォーターゲート事件で直接盗聴を命じたスキャンダルにまみれて、1974年に失脚していました。そこで汚名をそそぎ、再起を図る機会を狙っていたのです。一方フロストはテレビの人気司会者だったが、メディアの世界で決定的な成功を収めたかったのです。この二人の非常に際立ったキャラクターの持ち主が、互いの野望実現のためにプライドをかけてぶつかりあったのが、この番組だったといえます。
映画ではすさまじいトーク・バトルの(一部の)復元だけでなく、この二人の人物とくにニクソンの人間くささを掘り下げており、それなりに興味深かったのですが、個人的にはバトルの内容をより詳細に取り上げてもらいたかったと思いました。バトルの結果は・・・未だ見ていない人のためにそれは伏せておきましょう。ただトークの世界で当時超一流の人々がどのように戦うものか、それは色々と勉強になります。ディベートの役に立ちそうな教訓を少したれてみますか。
まずディベートは着席したときから既に始まっています。そこで相手チームや司会者との雑談で、その場の空気全体を和ませながら支配し、さりげなくとてつもなく重いプレッシャーを敵にかけることも、大事なポイントになります。
また開始早々いきなり相手の弱点の核心に先制攻撃をかけるのは、成功した場合には大きな効果を得られ、時には一発で相手をしとめることもできるが、はずされた場合のこちらのダメージは計り知れません。そしてその後で、戦線の建て直しに大変な労力を必要とするのです。
逆に相手にこちらの弱点を衝かれた場合には、当面戦線の建て直しのため時間稼ぎするためには、一般論に逃げ込み、はぐらかすのもひとつの手ではありましょう。しかし周りの視聴者には負けているイメージを与えてしまうので、この手段にはあまり頼りきりになるのはいけません。それよりも前もってこちらの主張の弱点を適切に把握し、防衛線を準備しておくことが大事です。防衛線として最も頼りになるのは、主題について相手が知らない情報や知識を仕入れておくことです。
相手の主張をよく聴くことがすべてです。そこには相手の弱点のすべてが、たいていの場合相手自身も気づかずに、露呈されてます。すべての主張には、多かれ少なかれ弱点があります。攻撃は最大の防御とはよく言われますが、トークにおいては、攻撃は自分の墓穴も掘ることでもあります。しかし打って出ない限り、相手をしとめることもできません。
決して感情的になってはいけません。そうなったほうが負けです。ディベートはゲームであって、果し合いではありません。相手は敵ではありますが、ゲームをともに楽しむプレイヤー仲間です。
乗り越えるべき相手は、さしつかえなければ対戦相手ではなく審査員といえましょう。丁度フロストとニクソンにとって、テレビの前の視聴者がそうであったように。彼らはともに番組を盛り上げるという点では、ある種の戦友であったとさえいえます。大会に参加される皆さん全員が、十分に楽しんでいただけますように。そして今年は伊藤ゼミからもか弱いチームが参加します。対戦する皆さん、覚悟してろよ!
