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2010年6月24日 (木)

カーボン・リーケージ(炭素の漏れ)とは? ― 武田 史郎准教授

□ はじめに

民主党政権は「CO2 (あるいは,温室効果ガス) を2020年までに90年比25%削減する」という非常に高い削減目標を掲げ,自民党政権よりも積極的に温暖化対策に取り組む姿勢を示しています.しかし,その意欲的な温暖化対策は現時点ではまだ国民の幅広い支持を受けているとは言えないと思います.特に,産業界からは民主党の掲げる温暖化対策に激しく反対する意見も出されています.

□「温暖化対策に反対する理由」

温暖化対策に反対する論拠は多岐に渡りますが,その一つとして,「アメリカ」や「中国」
といった CO2 の大量排出国が積極的に温暖化対策 (CO2の削減) に取り組んでいない状況で日本のみが突出した形で温暖化対策をすることは望ましくないという主張があります.
なぜ日本だけが積極的に温暖化対策をするのが望ましくないのでしょうか?これには「カーボン・リーケージ」という問題が関係してきます.

□「カーボン・リーケージ」

「カーボン・リーケージ」とは,日本だけが積極的にCO2削減に取り組むことで,日本以外の地域では逆にCO2排出量が増加してしまう現象のことを指します.カーボン (carbon) は「炭素」,リーケージ (leakage)は「漏れ」という意味ですから,日本語で「炭素の漏れ」とも呼ばれます.

□ カーボン・リーケージの問題点

地球温暖化の原因が日本の排出するCO2だけならば,日本のみがCO2を削減することで温暖化を防ぐことができます.しかし,温暖化の原因は世界全体でのCO2排出量です.日本でいくらCO2排出量を減らしたとしても,他の地域でCO2排出量が増加してしまうのなら世界全体でのCO2排出量は減少するとは限りません.もし,カーボン・リーケージが強く働くとすると,日本でCO2排出量を減らすことがかえって世界全体での CO2 排出量を増加させることにもつながりかねません.

□ カーボン・リーケージの原因

なぜ日本でCO2排出量を削減することで,海外のCO2排出量が増加してしまうのでしょうか?その理由としては次の2つがあります.
1. 生産活動の海外への移転を通じた効果
2. エネルギー価格の低下を通じた効果

【生産活動の海外への移転を通じた効果】

例えば,日本でCO2排出量の削減をおこなうとします. CO2の排出源は化石燃料 (石油,石炭,ガス) ですので,これは結局化石燃料の利用に制限をかけるということになります.化石燃料の利用に制限をかけることで,エネルギー集約産業 (化石燃料を大量に利用して生産活動をおこなっている産業),例えば鉄鋼産業,化学産業等は生産コストの上昇に直面することになります.この生産コストは価格の上昇につながります.
日本の企業は日本国内,及び海外において外国の企業と激しい競争をしています.そのような状況で,価格を引き上げたとすると,日本のエネルギー集約産業は競争力を失ってしまいます.日本企業の製品は売れなくなり,その代わりに海外の企業の製品が売れるようになります.その結果,海外での生産活動が増加し,海外でのCO2排出量が増加することになります.

【エネルギー価格の低下を通じた効果】

日本でCO2を削減すると日本の化石燃料への需要が減少します.これは需要と供給の関係から化石燃料の国際価格を低下させる効果を持ちます.化石燃料価格が低下すれば,日本以外の国では化石燃料の利用量を増やそうとします (安いものをたくさん利用するほうがいいので).これにより日本以外の国でのCO2排出量が増加することになります.

□カーボン・リーケージの大きさ?

問題なのはカーボン・リーケージの大きさです.カーボン・リーケージが小さい,つまり日本がCO2を削減しても他の地域ではそれほど増加しないというのなら問題ありませんが,カーボン・リーケージが大きいのなら日本のみが積極的にCO2を削減することは望ましくありません.
実際はどうなのでしょうか? これについては多くのシミュレーション分析がおこなわれています.中にはかなり大きいリーケージが生じるという結果を導いているシミュレーションもありますが,多くの研究ではリーケージはそれほど大きくないという結果が出ています.
これはあくまでシミュレーションであって現実にそうなるとは限りません.実際にどうなるかは日本がCO2の排出規制をおこなってみないとわかりませんが,このカーボン・リーケージは温暖化対策を考える際の一つの重要な論点ですので覚えておいてください.