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2015-07-03

映画「ラブライブ!」の大ヒットから「特典商法」について考える - 中谷 淳一 講師

■映画「ラブライブ!」観客動員ランキング3週連続首位

人気アニメ「ラブライブ!」の劇場版アニメ「ラブライブ! The School Idol Movie」(京極尚彦監督、6月13日公開)が土日2日間の観客動員ランキング(興行通信社調べ)で3週連続首位にたったことがニュースになっている。

『ラブライブ!』3週連続動員1位 (朝日新聞Digital 2015年6月29日)http://www.asahi.com/and_w/interest/entertainment/CORI2055122.html

[ラブライブ!]劇場版アニメが観客動員でV3(マイナビニュース 2015年6月29日)http://news.mynavi.jp/news/2015/06/29/263/

映画「ラブライブ!」と同日公開された邦画作品「海街diary」(是枝裕和監督、6月13日公開)、その翌週に公開されたハリウッド作品「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(ジョージ・ミラー監督、6月20日公開)を抑えての首位であり、公開からの累計興行収入も既に10億円を超え12億円に迫る勢いとのことなので、深夜アニメ発の映画としては大成功と言って良いだろう。

この映画「ラブライブ!」の成功の裏には「特典商法」と呼ばれる販促がある。週替りの入場者特典はもちろんのこと、数量限定の特典付き前売り券や、コンビニやアニメ・ゲーム專門店、Amazonなど販売先ごとに異なる特典付き前売り券を販売している。熱心なファンは、それらの特典を目的に前売り券を何枚も購入し、何度も映画館に足を運んでいる。(余談ではあるが、本学にも既に5回観に行ったという学生がいた。)

しかし、そうした「特典商法」に対し否定的な意見を持つ人が少なくないようである。実際に、特典商品を転売する目的で映画館に何度も足を運び、本編を観ずに帰る人も存在するという。そうした人も観客動員数に数えられるため、発表される興行成績ランキングが本質的であるかは議論の余地がある。しかし、結果が出ている以上、現状において特典商法は、映画の興行成績をあげるための有益な販促手法と言わざるを得ない。そこで今回のニュース解説は、マーケティングの見地から「特典商法」について考察してみたい。

■マーケティングの視点から見た映画の成否と特典商法

 マーケティングには、定めたターゲット(想定顧客)に対し、目的を達成するための製品、価格、販売場所(チャネル)、販促(コミュニケーション)を定め、そのバランス、整合性を図るという基本概念がある。製品(Product)、価格(Price)、販売場所(Place)、販促(Promotion)の頭文字をとって、「4P」または「マーケティング・ミックス」とも呼ばれる。

マーケティング・ミックスの視点から映画の成否を考えると、想定したターゲット(観客)に対し、期待する成果(観客動員数と興行収入)を得るために、適切な製品(映画そのもの)を適切な価格(映画の場合、前売りを除き一律価格)で準備し、適切な場所(ここでは公開劇場数)で適切な販促を行うことが出来れば映画は成功し、出来なければ失敗することになる。

この視点から、公開から3週連続にて土日の観客動員ランキングで首位に立った映画「ラブライブ!」は、「マーケティング・ミックス」が成功していると言って良いだろう。そして、映画ゆえに価格の操作は難しく、限られた予算のなかでは公開時に一般映画のようなスクリーン数を確保することが容易ではなかったと想像すると、絞り込んだターゲットに「何度も観てもらう」という狙いをもった販促が特に功を奏したと言って良いだろう。

表1:映画「ラブライブ!」のマーケティング・ミックス

ターゲット
(想定している観客)
「ラブライブ!」のファン(テレビ「ラブライブ!」の既視聴者層)
製品(映画の内容) アニメ「ラブライブ!」のファンが観て楽しめる内容(裏を返すとテレビ版「ラブライブ!」を観ていないと十分には楽しめない内容)
価格 一般的な映画と同一(特典付き前売りは特典分の費用が加算されるが、鑑賞券そのものの価格は同一)
販促 深夜アニメ放映時間帯のテレビCM、専門誌等への広告。多種多様の特典付き前売り券、週替りでの来場者特典の展開。
場所
(上映スクリーン数)
公開時全国121スクリーン(なお映画「ラブライブ!」と同日公開した邦画「海街diary」は約3倍の323スクリーン)

 そもそも映画「ラブライブ!」に限らず、深夜アニメ発の映画はテレビアニメ視聴者を主たるターゲットとしているため、一般映画に比べ絶対的な母数が少ない。ゆえに目的とする興行成績を確保するためには、同じ顧客に何度も映画館に足を運んでもらう必要がある。となれば、少ないターゲットに対し、何度も足を運んでもらうための販促(=仕掛け)を展開することは必然であろう。特典はそのための仕掛けにすぎない。

 先述したとおり、そうした「特典商法」に対し否定的な意見を持つ人も少なくない。しかし、マーケティングの視点から見れば、何ら否定されるものではなく、狙い(=同じ観客に何度も足を運んでもらう)を効果的に実現するための優れた販促手法であると考える。

■消費者視点にたち「特典」を含め映画を考える必要性

 「特典商法」は映画「ラブライブ!」にて初めて注目されたものではない。特典商法自体は映画のみならず様々な業界で古くから用いられている手法である。否定的な意見を持つ人が生じているのは、近年の特典商法の過熱ぶりにあるものと思われる。それは映画業界における深夜アニメ発映画はもちろんのこと、出版業界における豪華な特典を付けた雑誌や漫画、音楽業界におけるにイベント入場券等の特典を封入した音楽CDなどである。

 良い映画であれば2度3度と映画館に足を運ぶことも珍しくはないが、それが特典目的に短期間で5回10回となれば奇異に映ることも理解できる。これが雑誌、音楽CDとなれば、1人で同じ雑誌や音楽CDを何冊何枚も所有しても価値は皆無といって良いだろう。しかし、「特典目当てで本質的ではない」といって否定的になることは近視眼的といえないだろうか。

 映画に絞り考えてみると、少なくとも当事者たちは特典が目当てであっても「納得して」映画館に何度も足を運んでいる。そうした人たちにとって、もはや映画は単に「作品を観て楽しむ」だけのものではなく、「特典を収集することを含め楽しむ」ものと考えているのではないだろうか。上映スクリーン数が限られているため、週替り特典の配布開始日には、ファンが朝早くから(場合によっては前日から)特定の映画館に集まり行列を作ることも珍しくはない。ともすると、それら全てを含めて楽しんでいる可能性すらある。祭りに参加し楽しむ感覚に近いかもしれない。

 もちろん、映画業界全体を考えれば、本質的な製品(ここでは映画そのもの)の価値を高める努力を怠り、特典商法に過度に依存することは危険であるが、消費者が求めている価値を提供側が一方的に定義(もしくは固執)することも大変危険ではないだろうか。映画「ラブライブ!」の成功は「特典商法」が販促の領域を超え、「特典収集を含め映画を楽しむ」消費者がいることを教えてくれている。消費者視点で映画が提供している価値を再定義し、目的に合致したマーケティング手法を再構築する必要があるのではないだろうか。

参考URL

映画 「ラブライブ!The School Idol Movie」 特設ホームページ http://www.lovelive-anime.jp/sp_movie_ticket.html

CINEMAランキング通信(興行通信社) http://www.kogyotsushin.com/