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2018-04-26

株価の動きを理屈で説明できる・・・といいですね ― 林 仁史 教授

 株式の市場価格は省略されて株価と呼ばれます。毎日のように新聞やテレビなどで株価の水準や動きが報道されています。株価というものは、さまざまなものから影響を受けて常に変動しています。金融面から見た影響例として、株価は金利から影響を受けると考えられています。理屈はこうです。長期貸出金利の下落によって資金借り入れコストが減少するので企業業績が改善し、株価が上昇する、というものです。具体的に、銀行が企業に対して1年以上にわたる長期の資金貸出をする場合を考えましょう。そして、資金の貸し出しに際して設定される利子率を長期貸出金利と呼びましょう。何らかの理由で長期貸出金利が下落傾向にあり、例えば5%から3%になったとします。大ざっぱに考えてみます。例えば、企業が銀行から100万円を1年間借りたとすると、5%の貸出金利のもとでは1年後に借入元金100万円と利子5万円の合計105万円を返済しなればなりません。企業側から見ればこの利子5万円は資金借り入れのコストとなります。ところが、3%の貸出金利のもとでは1年後に借入元金100万円と利子3万円の合計103万円を返済すればよくなります。資金借り入れのコストはいまや3万円となり、5%の貸出金利のときに比べて2万円も減ったことになります。他の条件が一定のもとで、資金借り入れコストの減少によって企業の業績は改善します。投資家たちは長期貸出金利の下落が企業業績の改善につながることを容易に予想できます。したがって、業績の改善が予想される企業の株式を投資家たちは購入しようとするでしょう。もちろん、株式の売買取引が成立している間は株式の買い手はもとより売り手も市場に参加していることでしょう。しかしながら、業績改善が予想される長期貸出金利下落局面においては、現行の株価で売りたいと思っている株式数よりも現行の株価で買いたいと思っている株式数の方がはるかに多いと予想されます。つまり、株式市場で株式の供給不足が生じるわけです。この結果、立場の弱い株式の買い手の一人がこう言います。「割増料金を払いますから自分だけ優先的に株式を売ってください。」他の買い手も買いそびれてしまうのを避けたいと考えているので、我先に「割増料金を払いますから自分だけ優先的に株式を売ってください。」と言うでしょう。こうして株価は上昇していくのです。

 ここで、長期貸出金利が下落したことに直面した銀行側の気持ちになって考えてみましょう。銀行が企業に貸し出すときの資金は預金者からの預金を集めたものです。銀行は預金者に預金利子を支払わなくてはなりません。預金利子の支払いのための資金は、企業への貸出から得られた貸出利子の一部をあてることになります。「一部」と書いたのには理由があります。通常は、貸出金利の方が預金金利よりも高く設定されます。仮に、銀行から企業へ貸し出しをする場合に設定される貸出金利を5%とし、預金者への預金利子支払いの際に設定される預金金利を3%としましょう。もう一度、大ざっぱに考えましょう。預金者から預金金利3%で1年間だけ100万円預金をしてもらい、この100万円を企業へ貸出金利5%で1年間だけ貸し出すことにします。1年後に銀行は融資先企業から105万円の元利合計の支払いを受けますが、この105万円から預金者に103万円の元利合計の支払いをします。残った2万円が銀行のもうけとなります。言い換えると、貸出利子5万円の一部である3万円が預金利子支払いに使われます。残りの2万円は「利鞘(りざや)」と呼ばれ、銀行のもうけとなります。先述のように何らかの理由で長期貸出金利が下落傾向にあり、例えば5%から3%になったとします。銀行が企業に1年間100万円を貸しても3%の貸出金利のもとでは1年後の貸出利子は3万円にしかなりません。もし、預金金利が相変わらず3%であったら、1年後には貸出利子3万円を融資先企業から受け取って、預金者に預金利子3万円を支払ったら銀行のもうけはゼロです。これでは銀行は近い将来立ち行かなくなるでしょう。銀行としてはもうけが欲しいところです。仮に金利低下以前と同じ2万円の利鞘を確保したいと考えるならば、銀行は預金金利を1%に引き下げるでしょう。つまり、1年後に銀行が預金者に支払わなければならない預金利子は1万円です。そうすれば、1年後に融資先企業から受け取った貸出利子3万円のうち、預金者に預金利子1万円を支払って、残りの2万円を銀行は利鞘として確保できるのです。こうして、長期貸出金利の下落は預金金利の下落を誘発しました。

 さて、次に預金者の気持ちになって考えて見ましょう。預金者としては、預金金利の下落は銀行預金をしたときの利子収入の減少を意味しますから、銀行預金という金融商品の魅力が後退すると同時に株式など他の金融商品への投資意欲を湧き立てる可能性があります。例えば、1年間だけ100万円分の株式を保有すると1年後に受け取ることができる収益は2万円であり、預金利子率1%のときの利子収入である1万円を上回るとしたら、100万円の銀行預金をやめて100万円分の株式の購入をする人も増えるでしょう。この銀行預金から株式投資への投資先の変更によって、すなわち、株式市場での需要増加によって株価が上昇する可能性があります。

 これまでは、金融面から金利下落が株価に与える影響を見てきましたが、つぎに金利下落が実物面への影響を経由して株価に与える影響を考えてみましょう1。影響の波及経路は例えば以下のように考えることができます。長期貸出金利の低下によって、企業の設備投資需要が増加し、機械・鉄鋼・コンクリート・木材等に代表される建設資材等の設備投資関連財への需要を拡大させることを発端として景気拡大を牽引し、全体として企業業績が改善し、株価が上昇する、という波及経路です。また、長期貸出金利の低下に連動して住宅ローン金利が下落することで、新規住宅投資需要が増加し、やはり木材・コンクリート・家具・電化製品等に代表される住宅投資関連財への需要を拡大させ、全体として企業業績が改善し、株価が上昇する、という波及経路も考えられます。これらの需要拡大は所得の増加をもたらすので、消費支出の増加によって企業業績がさらに改善し、さらに株価が上昇するという波及経路も考えられます。これが、教科書的な一般論と言えるでしょう。

 さて、ここまでの内容に対して批判的に考えるときが来ました。現実の長期貸出金利の動きが現実の株価の動きに与える影響を説明する際に、上記の教科書的な議論を無批判に採用しても大丈夫でしょうか? そもそも上記の議論で株価って何を指しているのでしょうか? 個別企業の株式の価格でしょうか? それとも日経平均株価2でしょうか? 東証株価指数(TOPIX)3でしょうか? また、「他の条件が一定のもとで」とありますが、現実的にそんな状況はあり得るのでしょうか?4 株式市場で株式の供給不足が生じたとき、すぐにでも株価が上昇して供給不足を解消できるような書き方をしていますが本当でしょうか? 株式市場で、投資家の提示した買い注文価格に対して売り手からの売り注文が入らないか、または少ないため、株価が制限値幅の上限(ストップ高)まで切り上げたが値はつかず、売買が成立せずに「買い気配」のまま終わることも現実的にはあり得ます。

 預金者は、預金金利の下落に対して銀行預金から株式投資に切り替えるという議論も眉唾物です。日本の預金金利が異常に低い状態が続いているにもかかわらず日本の資産運用先として銀行預金の占める割合は依然として高いし5、運用資産を銀行預金から切り替えるにしても国債購入に振り向けるという安全資産から別の安全資産への切り替えもありうるので、必ずしも株式投資への需要は高まらない可能性があります。

 実物面の議論においても、長期貸出金利の低下が設備投資や住宅投資への需要を喚起するという主張は必ずしも現実的ではないかもしれません。それは、金利低下に対する設備投資や住宅投資の反応度6に依存するものであって、反応度が小さければ、長期貸出金利の低下が設備投資や住宅投資の需要を拡大し、各投資の関連財需要を増加させ、景気の拡大によって株価が上昇するという議論は破綻します。このようにまだまだ突っ込みどころがたくさんある議論ですが、枚挙に暇がないのでこのくらいにしておきましょう。

 その代わりにひとつ思考実験をやってみましょう。例えば、「他の条件が一定のもとで」をはずして、株価を自分が保有している企業Aの株式の価格であるとしてみましょう。このとき、長期貸出金利が下落したのにもかかわらず、A社株の株価が下落することはあり得るのでしょうか?

 株価に影響を与えるものとして金利のほかに為替レートの変動を挙げることができます。ここで、長期貸出金利の低下以外の他の条件が一定ではないケースとして、長期貸出金利の低下と同時に円建て為替レートが円安・ドル高方向に大幅に変動したとしましょう7。例として、1ドル=100円から1ドル=120円になったとします。A社は日本の自動車メーカーで生産された自動車の多くはアメリカ合衆国に輸出されるものとします。A社は1台4万ドルの自社の自動車をアメリカ人に売って、代金をドルで受け取ります。もちろん、自動車1台の輸出代金は4万ドルです。為替レートが1ドル=100円のときは4万ドル=400万円の売上額となります。ところが、為替レートが1ドル=120円になると4万ドル=480万円の売上額となります。したがって、日本の自動車メーカーの業績は円安・ドル高になると国際競争力が増し、円建ての売上額が増加し、業績が改善するので株価上昇圧力がかかります。自動車メーカーだけでなく精密機械メーカー・機械メーカー・電機メーカーといった輸出産業についても同様です。よって、長期貸出金利の低下と同時に円建て為替レートが円安・ドル高方向に大幅に変動した場合、A社が輸出産業であるならば、長期貸出金利の低下に伴う株価上昇と為替レートが円安・ドル高方向へ変動することに伴う株価上昇圧力によって、実際にも株価が上昇する可能性が高いと言えるでしょう。

 しかし、A社が電力・ガス・小売・建設・不動産・薬品・鉄道などの内需関連産業であると話が違ってきます。内需関連産業は原材料として、原油・建設資材・鉄鋼・鉱物資源等の輸入が多いでしょう。例えば、A社は日本の建設会社であり、建設されたビル・道路・橋梁のほとんどは日本国内で需要されるものとします。簡単化のため、A社は建設資材の製材をアメリカから輸入しているとしましょう。具体的にはA社は1単位あたり5億ドルの製材を1単位だけアメリカの製剤メーカーから買って、代金をドルで支払います。もちろん、製材1単位の輸入代金は5億ドルです。為替レートが1ドル=100円のときは5億ドル=500億円の支払額となります。ところが、為替レートが1ドル=120円になると5億ドル=600億円の支払額となります。したがって、日本の建設会社のA社は、円安・ドル高になるとアメリカからの輸入原材料調達コストが増加するため、業績が悪化するので株価下落圧力がかかります。日本の建設会社だけでなく電力・ガス・小売・不動産・薬品・鉄道などの内需関連産業についても同様です。よって、A社が内需関連産業であるならば、長期貸出金利の低下と同時に円建て為替レートが円安・ドル高方向に大幅に変動した場合、長期貸出金利の低下に伴う株価上昇と為替レートが円安・ドル高方向へ変動することに伴う株価下落圧力という相反する圧力によって株価が上昇するのか変動しないのか下落するのか明らかではなくなるのです。A社が内需関連産業であり、長期貸出金利の低下に伴う株価上昇圧力よりも円安・ドル高方向へ変動することに伴う株価下落圧力の方が大きければ、長期貸出金利が低下したにもかかわらず、他の条件が一定でないため、手持ちのA社株の株価が下落する可能性は否定できません。

 これは思考実験のひとつであり、特定の株式の価格の動きに対して金利や為替レートがどのように影響を与えるのかを明言するためには、統計データの地道な収集と分析が必要になるかもしれません。あいまいな言い方をするのは、どれだけ豊富なデータをそろえてもどれだけ長い期間にわたるデータをそろえても特定の株式の価格の動きに対して金利や為替レートがどのように影響を与えるのか明言できないかもしれないからです。長期的なデータをそろえて金利や為替レートが株価に与える影響を説明できたと思った矢先に第三の要因によって常に株価の動きが攪乱される可能性があるからです。「他の条件が一定のもとで」という前提が成り立たない現実において、株価の値動きがどんな要因からどのような影響を受けるのか明確に判断するのはなかなか難しいことですね。


1金利下落が実物面を経由して株価へ影響を与える可能性を考える際は、金融面の理屈を展開した場合より長い期間を想定しなければなりません。金融面に影響が出るスピードに比べて実物面に影響が出るのは緩慢だからです。

2株主は株券を保有している企業から配当や新株がタダでもらえる株式分割・割り当てられた新株を手に入れるには一定の払込金が必要となる有償増資を受け取る権利があります。なお、株式分割とは、株式1株を1.2株などと細分化することです。ある決められた期日を過ぎるとこれらの権利は消失します。これを権利落ちといいます。権利落ちには、増資新株の新株落ちと配当金の配当落ちがあります。割当日の4日前が権利落ち日となり、その後に前の株主の名前が消されて新しい株主の名前が株主名簿に記載され、株主としての権利が保障されます。増資の例として株式分割を考えましょう。例えばA社が1株600円の株式を1:1.2で株式分割をすることで増資をしたとします。権利落ちの前後で資産価値は変化しないとすると、理論株価はいくらに下落するでしょうか?答えは、1:1.2=x:600より、x=500、すなわち、理論株価は1株500円に下落するわけです。日経平均株価は、算出対象銘柄を225種とし、増資による権利落ち(株価下落)が引き起こす株価の不連続な下方ジャンプを調整して連続性を保つために、単純平均のように225種の株価の合計を225で割るのではなく、除数に修正を施して平均株価を算出しています。増資による権利落ちという株価の下落があっても株式数が増加するので全体の発行株式の価値は変化しないという考え方を採用しています。つまり、日経平均株価は、「当初、日経平均株価の算出対象銘柄を一株ずつ持っていた人の株式保有額」が株の値上がりと増資による株式数の増加によって現在いくらになっているのかを表しています。

3東証株価指数(TOPIX)は、大ざっぱに言えば、銘柄ごとに株価に東証一部上場の株式数をかけて合計した上場株式時価総額を1968年1月を100として指数化したものです。

4経済大国の大統領・首相・中央銀行のトップの発言や自然災害の発生や戦争の勃発で他の条件が一定のもとでという前提はすぐに成り立たなくなるものです。筆者が学部学生のとき、大学祭に当時の日銀総裁がゲストで来ました。学生からの国際金融についての質問に対して、その日銀総裁はうっかり本音で発言してしまいました。もちろん、マスコミも大学祭に取材に来ていました。直後の外国為替市場では為替レートが大きく変動しましたが、原因はそのときの発言であるとされました。「他の条件が一定のもとで」ある説明変数が被説明変数に与える影響を考えるというのは、経済学のお話しでよく顔を出しますが、例えば、数学における偏微分も同じような分析方法だと思います。

5日本銀行調査統計局(2017)『資金循環の日米欧比較2017』p.2、図表2によると、2017年3月末における家計の金融資産1,809兆円のうち、51.5%は現金・預金、28.8%は保険・年金・定型保証、10.0%が株式等という形態で保有されています。

6伝統的なマクロ経済学では、この反応度のことを「投資の利子弾力性」と呼びます。

7長い間、さまざまな原因によって一般的に米国金利は日本の金利より高い状態が続いています。日本の長期貸出金利が低下すれば米国の金利が以前より相対的により高くなるので、為替レートが安定しているなど他の条件が一定のもとでは、日本で投資するより米国で投資することが相対的により有利になる可能性があります。もしそうだとすれば、大ざっぱに言って、投資家は手持ちの円建て債券を売却して日本円を入手し、その日本円を外国為替市場に持ち込んでUSドルと交換したうえでドル建て債券を購入しようとするでしょう。この動きが活発化すれば、外国為替市場において日本円が過剰になると同時にUSドルが不足するため為替レートは円安・ドル高方向に変動する可能性があります。この日本の金利低下に対する為替レートの調整は瞬時に行われます。日本の長期貸出金利が低下することと為替レートが円安・ドル高方向に変動することが同時に起こることの理屈としてはこれ以外もありますが、今回は割愛します。