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2018-05-18

子どもの貧困問題の解決に向けて ― 張 信愛 講師

●子どもの貧困とは

 「16.3%」。この数値は2012年時点の日本における「子どもの貧困率」です。OECD(経済協力開発機構)によると、世界34か国の子どもの貧困率の平均は13.6%ですが、日本はそれよりはるかに上回っており(図1)、子どもの貧困問題が深刻であることを表しています。2016年に発表された厚生労働省の国民生活基礎調査によると、2015年時点の子どもの貧困率は13.9%であり、2012年より2.4ポイント減少したものの、子どもの貧困問題が相変わらず深刻であることを示しています。

図1 Child income poverty rates 2014 or nearest available year (Japan to 2012)

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出典:OECD(2017) Family Database “Child poverty”

 このような「貧困率」の数値はどのように算定されるのでしょうか。まず、「貧困」について概説しますと、貧困の定義は大きく分けて二つ、絶対的貧困(absolute poverty)と相対的貧困(relative poverty)があります。前者の絶対的貧困は、人として最低限の生活を営むことができない状態を意味します。World Bankによると、2015年基準、購買力平価米ドルで一日あたり1.90ドルの所得を国際的な貧困ラインとして定義しています。後者の相対的貧困は、各国の生活水準や文化水準などが異なるため、国内に住む人々の所得で算定します。したがって、その基準となる貧困線は国によって異なります。この貧困線に満たない世帯員の割合を相対的貧困率といいますが、等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分の額を貧困線として設定し、貧困率を算定します。厚生労働省(2016)によると、日本の場合、2015年の貧困線が122万円、相対的貧困率は15.6%でした。また、13.9%という子どもの貧困率は17歳以下の子どもを対象に算定します。このような厚生労働省の国民生活基礎調査における相対的貧困率の算定方法は、OECDの作成基準に基づいており、日本の独自の算定方法というのは設けられていないのが現状です。

図2 相対的貧困率の算定方式

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出典:厚生労働省 平成28年 国民生活基礎調査

 それではなぜ相対的貧困が問題視されるのでしょうか。国によって貧困線が異なるものの、この相対的貧困率が高いということは、その国において格差が大きいことを意味するからです。とくに、17歳以下の子どもの貧困は、教育格差を生み、それによって貧困の連鎖を引き起こすと指摘されています。例えば、大学等への進学率を比較してみると、全世帯の数値73.2%(2015年度時点、大学等51.8%、専修学校等21.4%)に比べ、生活保護世帯に属する子どもの進学率は32.9%(2015年度時点、大学等19.2%、専修学校等13.7%)、ひとり親家庭の子どもの進学率は41.6%(2011年度時点、大学等23.9%、専修学校等17.8%)であり、経済的に困難な環境にある子どもの進学率がはるかに低いことが分かります。

●政府や民間による子どもの貧困への対策

 このような子どもの貧困問題への対策として、2014年1月に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」(平成25年法律第64号)が施行されました。また、同法律第8条の規定に基づき、2014年8月29日に「子供の貧困対策に関する大綱」が閣議決定されました。同大綱では、子供の貧困に関する指標の改善に向けた当面の重点施策として、教育の支援、生活の支援、保護者に対する就労の支援、経済的支援を掲げています。とくに、学校を子どもの貧困対策のプラットフォームと位置づけ、学校教育による学力保障を強調するほか、学校を窓口とした福祉関連機関等の連携を図るとともに、経済的支援を通じて、学校から子どもを福祉的支援につなげ、総合的に対策を推進することが提唱されています。そこで、貧困家庭の子どもたち等を早期の段階で生活支援や福祉制度につなげる役割を担うスクールソーシャルワーカーの学校への配置が進められています。

 一方、各自治体や民間による活動も活発に行われています。その一つが全国的に拡大している「子どもの食堂」です。子どもの食堂は、地域住民や自治体が主体となって無料または低料金で子どもたちに食事を提供するコミュニティの場です。「こども食堂安心・安全向上委員会」によると、子ども食堂が全国2,286か所に急増しました(毎日新聞、2018年4月3日)。群馬県にも26か所あるそうです。

 このほかにも、例えば群馬県には「負の連鎖を断ち切る」というフレーズを掲げ、母子家庭や貧困家庭の子ども等を対象に学習支援や各種相談等を行う「おおた女性ネット」があります。代表は活動をはじめた理由について以下のように説明します。

 「学費を払うお金がなければ高等学校や大学等に通えません。「お金が力」だと感じる人は多いのではないでしょうか。お金がないとやりたいことができないことが多いんです。ですから貧困のお子さんたちは不公平を感じます。ひとり親のお子さんたちはなおさらです。不公平感は思い通りにいかないことを増やすので「怒り」につながりやすいんですね。…お子さんたちはたくさんの人たちから大切にされる(愛される)ことを実感すれば「自分を大切にするように相手を大切にする」ようになる!」

 それぞれ規模は小さいですが、ひとりの子どもでも助けたいという思いを抱いた民間の活動が全国的に散見されます。

 以上のように、政府や民間による対策が取り組まれていますが、貧困に起因するさまざまな課題があり、経済的支援はもちろんのこと、多側面からの支援も必要であることを見取ることができます。

●子どもの貧困の実態を把握する必要性

 さらに、「貧困」をどのように捉えればいいのかという、貧困の指標の開発も喫緊の課題です。現在用いられている「貧困」の算定方式では、貧困の実態が見えにくいため、支援を必要とする子どもたちが隠れてしまい、支援が届いていないという懸念の声も上がっています。

 現在日本では、先述した③生活保護世帯に属する子供の大学等進学率(32.9%)のほかに、⑧児童養護施設の子供の高等学校等卒業後の進学率(22.6%)、⑬ひとり親家庭の子供の高等学校等卒業後の進学率(41.6%)、⑮スクールソーシャルワーカーの配置人数(1,008人)、⑯⑰スクールカウンセラーを配置する学校の割合(小37.6%中82.4%)などの25指標を用いて子どもの貧困を調査しています。しかし、経済状況のみならず、教育や成育環境などの子どもたちを取り巻く状況を多面的に把握する必要があります。そのため、諸外国における子どもの貧困指標の状況を調べるほか、日本の子どもの貧困に関する先行研究の収集を行う動きもあります。この調査をまとめた「子供の貧困に関する新たな指標の開発に向けた調査研究」報告書では「学力に課題のある子どもの割合」「朝食欠食児童・生徒の割合」などの新たな指標を追加すべきだと提案しています。

 子どもたちは日々成長しています。制度が整備されるまで待ってくれません。そのためにも、指標の開発を通じて子どもの貧困の実態をより明確に把握し、適切な支援を行うことが至急に求められます。

●参考引用

・厚生労働省「平成28年 国民生活基礎調査」http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/index.html(2018/3/20)

・OECD(2017) Family Database “Child poverty” http://www.oecd.org/els/family/database.htm(2018/3/20)

・内閣府「子供の貧困対策に関する大綱」平成26年8月29日  http://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/pdf/taikou.pdf(2018/3/21)

・内閣府「子供の貧困対策に取り組む支援団体の活動事例に関する調査研究活動事例集」平成27年3月 http://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/chousa/h27_jirei/index.html(2018/3/21)

・内閣府「子供の貧困に関する新たな指標の開発に向けた調査研究 報告書」平成29年3月 http://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/chousa/h28_kaihatsu/index.html(2018/3/21)

・毎日新聞「子どもの食堂全国2286カ所に急増貧困対策、交流の場」2018年4月3日  https://mainichi.jp/articles/20180404/k00/00m/040/120000c(2018/5/10)