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2018-06-27

働き方改革がなぜ必要か ― 岩本 千晴 准教授

 2018年1月22日の施政方針演説で働き方改革が重点項目として挙げられました。働き方改革とはどのような内容なのでしょうか。なぜこのような改革が必要なのでしょうか。この取り組みで何を目指しているのでしょうか。実施するには何が問題となるのでしょうか。今回のニュース解説では、このような点を整理してみましょう。

 働き方改革は1つの政策ではなく、いくつもの政策が含まれる政策パッケージになっています。大きくわけて3つのテーマに取り組んでいます。第1は、労働者の処遇改善、第2は、柔軟な働き方の推進、第3はキャリア構築です。第1のテーマで取り組む内容は、正規雇用と非正規雇用の格差是正です。この課題に取り組む政策として「同一労働同一賃金」が含まれているのです。第2のテーマに対する取り組みはワーク・ライフ・バランス(WLB)の確保です。子育てや介護、病気の治療のために離職することなく、時間や場所の制約を受けずに様々な働き方ができるように就労支援を行うことが目的です。第3のテーマで取り組む内容は、100年人生時代にむけてライフスタイルや人生の異なるステージの変化に合わせた環境整備を目的とするものです。この中には若年のキャリア構築支援や、高齢者の就労支援、リカレント教育など、個人の学び直しへの支援が含まれます。

 なぜこの改革が必要なのかを説明するために、データで見てみましょう。フルタイムで働く男性の給与を正規雇用と非正規雇用で比較すると、20~24歳では正規と非正規で賃金に大きな差はありませんが、40代以降は正規雇用が非正規雇用の賃金格差が拡大していきます。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によれば、大学・大学院卒業で大企業でフルタイムで働く40~45歳男性の平均給与は、2015年には正規雇用で約50万ですが、非正規雇用では約23万です。中小企業の場合は、40~44歳の正規雇用の平均給与は40万、非正規雇用は約20万となっています。正規雇用の場合には、基本給の他に昇給があり、賞与、各種手当の他に、福利厚生も含まれます。さらに正規雇用であれば教育訓練を受け昇進の機会が増えるため、年齢と共に正規と非正規の差が拡大する一因となっています。

 賃金格差は珍しい話題ではありませんが、実際には非正規雇用は2014年以降大幅に増加しています。労働者にとってはメリットが限られている非正規雇用ですが、企業は将来の景気の不透明さに対応するためには、非正規雇用を拡大した方が固定費を最小に抑えることができるためです。平成29年度経済財政白書によれば、2014年以降の就業者数増加は非正規雇用の増加によるものでした。特に法的規制がなければ、企業には非正規雇用を増やすインセンティブがあります。

 このような状況に法整備で対応しようという取り組みの1つが「同一労働同一賃金」です。政府が提案するガイドラインによれば、職務・能力・勤続年数の違いを認めた上で、業務上「実態に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給」を求めるものです。この中には、賞与・昇給・各種手当、経費の支給や教育訓練も含まれます。ただし、この同一労働同一賃金を法律化するには、別の法整備も必要です。企業の雇い止めが発生する可能性もあります。非正規雇用の処遇改善の法整備以外に、今後は非正規雇用の採用枠そのものを規制することも必要になるでしょう。

 第2のテーマである柔軟性のある働き方の推進はWLBに関係します。そのためには長時間労働の習慣を変える必要があります。平成29年度経済財政白書には、労働時間と生産性の国際比較で見ると、労働時間が長いほど生産性が低いというデータが示されています(2017: 114)。平成29年度厚生労働白書でも長時間労働(週60時間を超える労働)の弊害として生産性の低下を上げています。前出の経済財政白書では、1人当たりの労働時間が減少するにつれて、労働生産性が上がることが主要国のデータ示されています(2017:118)。

 柔軟性がある働き方推進のためには、WLBの確保の他に、労働制約の緩和が必要です。このため、働き方改革では、子育て・介護・病気の治療と仕事を両立させることができるように支援策を盛り込んでいます。育休の延長、介護のための短時間労働の推進など、離職によってキャリアを中断せずに済むような法整備の推進です。

 最後に、第3のテーマであるキャリアの構築です。長寿化にともなう100年人生時代、就業年数が長くなるほど、働いている間または定年後の学び直しが必要となります。また、家族を育ててから学び直しする女性も増えるでしょう。総務省の調べでは、65歳以上で働きたい高齢者は65.9%、社会人の学び直し希望は49.4%となっています。人生いつからでもどんな状況からでも再出発は可能です。働き方改革の第3のテーマはこのような学び直しを支援する取り組みです。

 以上、新聞等でよく目にする働き方改革について説明しました。現在は政府のガイドラインについて政策として法整備する段階ですが、近い将来働き始める皆さんには非常に関連ある内容ですので、学生のみなさんも新聞等の記事を気を付けて読んでみてください。