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2018-11-29

留学生はどうなるの?―入管法改正をめぐるニュースから ― 佐藤 有紀 准教授

ここ数週間、「入管法改正案」という言葉が連日のようにニュースを賑わせています。「入管法」は正式名称を「出入国管理及び難民認定法」と言い、文字通り「日本という国への出入りをどう管理するか」の全般にまつわる法律ですが、特に、外国籍の方々(以下、本文中では「外国人」と呼称)に対して、「こういう人・こういう場合だったら日本に住んでもいいですよ/日本に来ていいですよ」という許可をどのように与えるかを決定するものとしてニュースの中で多く取り上げられています。今日は、最近話題になっている「入管法」について、身近な留学生を通して、私たちの暮らしにどう関係するかを考えてみましょう。

ところで、みなさんは、「自分の国以外の国や地域に住んでみたいなぁ」と考えたことはありますか?いつか海外で生活するというおぼろげな夢や明確な希望を持っている人も少なからずいるかと思いますが、「外国」という場所は、何となく理由もなしに、その国の国籍の人と同じように自由に滞在できるものではありません。海外旅行に行ったことがある人は、渡航先の空港で「入国の目的は?」「いつまで?」「どこに泊まる?」などと質問されて「sightseeing(観光)」等々答えた経験があると思いますが、それが数か月以上の滞在になる場合、聞かれることはもっと詳細になります。ただ何となくふらりと遊びに行って、適当にバイトを探してアパート借りて好きなだけいよう、という気持ちで外国に入国するわけには行きません。事前に「どんな目的で滞在したいのか」を明らかにした上で、相手の国が定める書類(預金残高証明書など)を提出して、その国に入国して一定期間滞在しても大丈夫かどうかの審査を受けなければなりません。その審査に通ってはじめて、「査証(ビザ)」という許可証が発給され、晴れて外国に滞在できるようになるというわけです。

日本でももちろん、訪日を希望する外国人に、そのような審査をしています。その審査の基準となるのが「入管法」です。現在の日本の入管法では、基本となる27種類のビザを定めていて、特定の国・地域からの短期間の観光などの例外(※7月時点で、68の国・地域に対し、短期の観光、会議、親族・知人訪問等の報酬を得ない目的であればビザの免除が認められています)はあるものの、多くの外国人は、27種類のうちいずれかのビザを審査を受けた上で取得して、ここ日本に滞在しているというわけです。
本学でも外国籍の方がたくさん学んでいますが、留学生の皆さんは「留学ビザ」、日本で育ったブラジルの方などは「永住ビザ」等、各々に応じたビザを取得しています。また外国籍の先生方もそれぞれビザ審査を受けていらっしゃいますし、過去には日本で結婚し、「配偶者ビザ」の資格で滞在していた学生もいました。

このビザは、種類ごとに「日本の中でして良いこととだめなこと」そして「しなければならないこと」が明確に定められています。例えば、留学ビザは当然勉強するためのものなので、在籍している学校の授業にきちんと出席し、大学であれば単位を取得しなければならないということが大前提です。そのためにアルバイトをしすぎてはだめだと決められています。具体的には、留学ビザで滞在している場合、週に28時間を超えて働くことはできません。夏休みなどの長期休みには例外的に1日8時間まで(週56時間)バイトをすることも可能ですが、1年間の合計収入も制限されており、一定基準以上稼ぎすぎだと入管に判断されると、次にビザの更新審査を受ける時に不利になります。また、留学生が許可された時間数を超えて働いているようなことが明らかになれば、バイト先に入管が調査に入ることも少なくありません。その場合には、留学生本人はもちろん、働かせている雇用側も入管法違反に問われることになりますので、経営者側も入管法の詳細について充分に理解しておく必要があります。
入管法を知っておかなければならないのは留学ビザの学生をアルバイトで雇う場合だけにはもちろん留まりません。社員として外国籍の方を採用する場合、何か月か日本を体験したいという友人・知人を招く場合、外国籍の人と結婚する場合、スポーツチームに外国人助っ人を呼びたい場合、学校で留学生を募集する場合等々の時にも、入管法が深く関わってきます。適当でいいや、知らなかったってことにしようでは決して済まされないのです。

このように、入管法は、私たちの生活にとって、決して縁遠いものではありません。それどころか、外国人と接し得るすべての人にとって、生活に深く関わるものなのです。
この入管法が最近のニュースに連日取り上げられている理由は、現在行われている国会に、入管法の改正案が提出されているためです。政府は、来年4月からの導入を目指し、現在改正のための審議が進んでいます。入管法がどのように改正されるか、またその場合にどのような問題が起こるのかについて、各ニュースが注視しているというわけです。

今回の入管法改正案は、一言で言うと「外国人を日本で働きやすくする流れをつくる」ためのものです。改正目的について、政府は「外国人労働者の受け入れ拡大」を謡っています。現在の法律では、外国人が日本で働く際には、一定の専門性があることや期間限定であることなど細かい規定が多く定められています。それを、今回の改正案では大幅に就労要件を緩和するということです。いわゆる単純労働でも受け入れ可能としたり、家族帯同や永住の可能な場合をより広く想定したりするなどの内容となっており、もし改正されれば数十万人規模の外国人が新たに来日するのではないかと試算されています。これに対しては、「外国人を日本に滞在させやすくする」「大量の外国人を短期間に日本に流入させる」「外国人労働者が増えることで日本人の就労の機会が奪われる」「結果的に移民政策につながる」など懸念の声が野党やマスメディア、世論から多数出ています。しかも法改正は通常1年以上かけて検討されるのに対し、今回の入管法は検討開始からわずか4か月ほどで全体像が発表され、現在の国会で成立ありきの超スピード改正案であるため、問題視する声が次々に上がっています。

一方、「日本の若者が減って労働力不足なのだから外国人が日本に来て働きやすくなるのはいいことなのではないか」と考える方もいることでしょう。また、大学生の皆さんの中には、「まわりの留学生を見ていると日本での生活は金銭的に大変そうなので、働きやすくなるのはいいことだ」と、身近な留学生のことを考えて感じる人もいるかもしれません。
しかし、実際にはそう簡単ではありません。外国人労働者受け入れ拡大のための入管法改正案が審議中の裏で、11月19日の朝日新聞朝刊にこんな記事が載っていました。「留学生の在留審査 厳格化」「日本語学校 厳格化に困惑」というタイトルで、日本で勉強したいという外国人に対してのビザの交付審査が、今年2018年に入り一気に厳しくなっているという内容です。例えば、ネパールから日本に留学を希望する方々を見ると、4月の審査では希望者のうち約48%が留学生としてビザ発給を許可されたのに対し、10月には約8%まで交付率が下がりました。同様に、バングラディッシュは約58%から約3%、ミャンマーも約74%から約20%となるなど、アジアの大半の国に対するビザ発給が軒並み急減しています。一方で、中国からの留学希望者には90%前後、韓国からであれば95%以上など、依然高い確率で交付され得ていて、大きな変化はありません。言い方を変えれば、中国・韓国以外の主としてアジアの国々から留学生として日本に入国することは、現在非常に厳しくなっているということです。それも段階的にではなく、一気に厳しくなった、という内容なのです。記事には「(交付率の減少は)「違法な労働に携わる留学生がいるため」「国籍を理由に不交付にしたわけではない」という東京入管へのインタビューを紹介していますが、同時に、特定の国々の人々に対してあまりに一気に不許可が増えたことに対しての「個々の学生の事情でなく、国籍で判断しているとしか思えない」という日本語学校からの不満の声も掲載されています。
本学でも、ネパール、ベトナム、スリランカ、ミャンマーなど、記事中で言及されている国から来た留学生が学んでいます。その学生たちのまわりでも、知人や親せきが留学のビザが取れず来日をあきらめたという事例を実際に耳にします。

入管法を改正して労働者としての外国人に門戸を開く一方で、留学生として日本に学びに来ることができる機会を与えないという方向性は一見相反するように思えるかもしれません。しかし先に書いたように、もともとビザにはそれぞれの資格に応じて在留条件がありますので、「留学ビザは勉強に特化。働きたいなら別のビザで」という政府の姿勢を明確に示した結果だと言えるかもしれません。実際に留学ビザが不許可になった外国人の一部が、来年4月以降に改正された入管法の導入を待って労働者として来日を希望するようになるのではないかという見方もネット上で出ています。せっかく入管法を改正するのだから、その前にアルバイトなどでたくさん働きたいという方向性の留学生数を制限しておき、新しい制度を使い、労働者として入国させる人数を確保したいという誘導の意図があるのではないか、などと個人的には思ってしまいます。それくらい留学生のビザ発給率の低下が急激なものだからです。

ここからも分かるように、入管法の改正は一見すると外国人を日本に来やすくさせる流れのように言われることが多いのですが、みなさんの周りにいる留学生のような学びたい外国人にとっては、厳しい面があることにも、目を向けて欲しいと思います。また同時に外国からの労働者が政府の試算通り数十万人規模で日本に入国して職を得た場合、みなさんのアルバイトや就職を含む日常生活にどのような影響が出るのか、想像してみることが非常に大切です。

さて、これを書いている11月27日、入管法改正案が衆議院で可決されたとのニュースが飛び込んできました。審議が不十分であるなどと野党が猛反発を続ける中での可決だったため、今後の審議も大荒れ必至でしょう。それだけに毎日ニュースで取り上げられることも間違いありませんので、しっかりと記事を読んで論点や問題点を自分なりに整理し、私たちの日常に深く関係するこの改正案がどうなっていくのか、自分の目で見届けていきましょう。

今回お話ししたのは、「入管法」についてのほんの一部分と、その改正案にまつわるニュースのごく簡単なご紹介のみです。入管法への無関心は、日本の未来への無関心にほかなりません。今日から毎日ニュースをチェックしたり身近な外国人である留学生に質問したりするなどし、より理解を深めていっていただければと思います。