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2018-11-22

我慢がいらない豊かな世界へ ― 東 倫広 教授

IT革命による変化

 IT革命は、情報技術の発明によって世界にとんでもない変化をもたらした。90年代からのPCとLANの技術、90年代半ばからのインターネット普及、90年代末からのスマートフォン、2006年以降のAI(人工知能)ブームなど、どれも社会を驚かす革命が起きたが、頻繁な変化に麻痺したせいか、最近「革命」という言葉は耳にしなくなった。

 2018年1月職種別の転職求人倍率は、インターネット専門職(6.10)やソフトウェア開発エンジニア(4.82)、SE(3.26)の方が、経理・財務(1.23)や人事(1.32)、総務・広報(0.89)、オフィスワーク事務職(0.42)より遥かに高い。オフィスアプリの普及によって、ルーティンワークを中心とした一般職の需要は自然と減っていった。

 株式会社野村総合研究所が2015年に発表した試算によると、10~20 年後に日本の労働人口の約49%が就いている職業はAIやロボット等で代替可能になるそうだ。特別な知識・スキルが求められない職業や、データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業は、代替できる可能性が高い。一方、創出するための能力が要求される職業、他者とのコミュニケーション・サービス志向性が求められる職業は、AI等での代替は難しい傾向がある。

 人類が蓄積した知識や経験をミスなく繰り返しに再現できる仕事をAIやロボットに任せて、人類は、新しい知識や経験の創出に専念できるようになる傾向が加速している。

我慢から自分らしさへ

 職業が少ない時代に、人は、我慢したり個性を削ったりして、限られた狭い枠に合わせて無理やり自分を変えなければならなかった。昔の寿司職人は、1年目は洗い場、3年目から飯炊き、8年目から握り、10年目からやっと認められて一人前になる。難関大学に挑戦する受験生は、興味があるかないかを棚上げに、得意でない科目を反射的に答えられるまで暗記しなければならない。

 寿司職人も受験生も目標に対して挑戦し続けることによって、自分の限界を超えた成長を果たすが、途中で諦めたり自分の生まれつきの才能を活かせなかったりして、個人や社会の損失を生じてしまった。

 熟練した寿司職人の技術をもった寿司ロボットは回転寿司の歴史と共に、進化している。おいしく、ふわっと、まるで人が握ったようなシャリが寿司職人も驚くほどできている。お客さんの注文の受付から寿司の完成までできるロボットの実用化はもはや時間の問題だ。

 2013年には国立情報学研究所や富士通研究所の研究チームが開発した「東ロボくん」が大学入試センター試験と東大の2次試験の問題を解読した。代々木ゼミナールの判定では「東大の合格は難しいが、私立大学には合格できる水準」だった。

 今まで人が集まって運営する業界や領域(寿司、入試)は数少なかったため、業界の頂点を目指すために多くの時間をかけて頑張らなければならなかった。激しいグローバル競争は、少ない資源を奪い合う中で、世界大戦に陥りやすくなる。少数の人のためにサービスを提供する業界の数が少ない今の世界は、豊かになったと言えない。

 IT革命が進み、誰もが自由に情報を入手したり、発信したりすることができるようになった。自動化が進み、人間は繰り返しの作業から解放され、余った時間で眠った才能を蘇らせることができる。才能さえあれば、10年もかからずに、一人前の寿司職人になることができる。

 2011年ニューヨーク・タイムズ紙で米デューク大学の研究者キャシー・デビッドソンさんは、「アメリカで2011年度に入学した小学生の65%は、大学卒業時、今は存在していない職に就くだろう」と示唆した。その結果は前述の野村総合研究所の試算とほぼ一致している。

 人類が眠った才能を活かして、今まで存在していない職を作り、より多くの人々にサービスを提供して、幸せな世界を目指す。YoutubeやTwitterなどを通して、同じ考え方を持つ人々を集めてその分野を発展させ、大きな業界にすることもできる。年収数千万以上で、面白いネタやゲーム実況をレポートするユーチューバーは、その一例である。

教育システムの改革

 公益財団法人日本数学検定協会は15日、10月28日に実施した「実用数学技能検定(数学・算数検定)」で、最難関の1級(大学レベル)に東京都内の小学5年生が最年少で合格したと発表した。彼は3歳のころ、両親に買ってもらった立体パズルがきっかけで数の性質に興味を持ち、自分で数学の勉強を始めたそうだ。

 もしこの小学生の両親が立体パズルを買ってこなかったら、こんなに早く自分の興味や才能に気づかなかったのであろう。

 決まった教材を学生に一律施して、その成績で学生を評価する従来の教育システムは、学生の持つ潜在能力を引き出すことが難しい。目覚めるどころか、自分の才能を引き出そうとする自信も喪失してしまっている。

 学生が目標を達成できない時に、「頑張りが足りないからもっと頑張って!」と激励すると、その学生が我慢して頑張ることによって、自我がさらに自分から遠ざかっていってしまう。その結果、ほとんどの大学生は就職活動をする際に自分の強みを履歴書に書けない。企業は新卒の「疑似的な」強みを生かす志望動機を聞いて、数回の面接で合否を判断する。しかし、新卒の入社後、ミスマッチが多発し多くの企業を困らせてしまう。「新卒社員の31.9%は3年以内に辞職してしまう」という厚生労働省2013年の調査結果はこの厳しさを物語る。

 企業はすでに入社後のミスマッチを防ぐために1Dayインターンを実施しているが、教育機関は、未だ一人前になるための土台作りの教育に切り替えていない。いくら挑戦しても達成できない時に、教育システムのアドバイザーは「もっと頑張れ」の代わりに「○○を挑戦してみよう」と助言するべきだ。そうすれば、学生は早く自分の潜在能力に気付くはずである。そのためにも、教育機関は今以上に数多くの教育コンテンツとそれなりの教育方法を開発しなければならない。日本が一日でも早く我慢文化から抜けだせることを願っている。