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2018-11-14

消費税率引き上げ × キャッシュレス化促進 = ポイント還元 ?! どうしてそうなる ― 長谷川 雄哉 講師

 政府は消費税率を10%に引き上げるにあたり、消費が落ち込むことが予想されることをうけて、キャッシュレス決済の利用者にポイント還元という制度を検討しているようだ(2018年10月18日付日経新聞等)。この施策で主に想定される手段はクレジットカードで、これを利用して決済したものについて2%のポイント還元を政府が支援、つまり政府が支出してあげることで、消費者のキャッシュレス決済の利用も進み、消費税増税分の2%がこれで相殺されることになるので「消費活動にも影響を与えないでしょう?」というプランである。
 とうぜんながらカード会社や金融機関としてはこの施策は歓迎で、これまでさまざまな障壁により進んでいなかったクレジットカード決済が普及するということもあって積極的な姿勢を見せている。なによりポイント分は政府が拠出してくれるので自らの懐を痛めることなく、それでいて従来はカード等の利用が積極的でない顧客がカードを利用する可能性が生まれ、さらには顧客のカード決済需要の高まりを受ければ、現金主義だった店舗も態度を改めざるをえなくなるため、カードの利用が促進されることで、手数料や金利収入を得る機会が増えることになる。
 もしこのような施策が正式に採用されれば、ポイント獲得を目論んだ顧客を対象にカード会社は積極的な顧客開拓に乗り出すことになり、与信情報の審査もホドホドに、本来であればカードを持てないような層にまでクレジットカードが乱発されることになり、別な意味での混乱を生むことになると考えられるが(そしてお金の管理のずさんな消費者はリボルビング払い地獄に落ちることになるだろうが)、これは危惧すべき問題であるが今回のニュース解説において対象とする話題ではない。

 そもそも還元という手法はスマートではない。なぜなら決済を行った後にその利用状況に応じて処理をする必要があり、その処理の手間が増えるものである。どんなに電子化したところで、どんなにコンピュータで自動的に処理をするとしたところで、その処理の結果を確認するプロセスは必要であり、またプログラムについても検証を行わなければならず、おいそれと簡単に手間ゼロでできるものではない。またクレジットカードの利用ができない者には商品券を出してはどうかなどという議論も並行して行われているが、これも手間を増やす手法である。商品券を配る対象を決める作業、券を作成する作業、実際に使われた商品券を現金と交換する作業、さらには真贋のチェックやその管理など、とにかく手間のコストが馬鹿にならないやり方である。
 消費税増税とセットで議論されることがそもそも筋違いではあるが、キャッシュレス化という「手間を減らす手法」の導入を議論している時になぜそのような「手間を増やす手法」が堂々と登場して、しかも平気な顔をしているのか。この局面においては「ポイントがもらえて嬉しいネ・商品券がもらえて嬉しいネ」ではなく、そのことを問題であると感じるセンスが求められるのである。
 今回のポイント還元の原資は政府からの支出によって賄われることが計画されている。つまり元をただせば国民の税金であり、あるいは国債という国民へのツケである。キャッシュレス決済をすることで、または商品券の給付を受けることで、自分の払ったものが還ってくる形となり、その税負担に対して軽減を受けたと感じるかもしれないが、それを還すために多くの手間がかかり、その手間賃が税金から消尽されることになることに気づかなければいけない。その手間(コスト・費用)を掛けるぐらいであれば、よりシンプルなシステムを構築することで取引にかかる費用の圧縮に努めるべきであり、その費用の圧縮から生まれた余剰の還元を得ることを目指すべきであるといえる。

 キャッシュレス化を阻む最大の障壁は、クレジットカードの議論をすると必ずといっていいほど登場する「利用手数料」の問題である。「店舗はクレジットカードを使われるたびに損をする」ということが注目され、事実クレジットカードによる決済は契約により異なるが、月額の基本利用料金とカード利用の売上の数パーセントをカード会社に対して利用手数料として徴収されることになり、店舗経営者から見ればこれは売り上げに対する損失であると言える。カード会社は現金決済とカード利用を区別しないよう通知をしているが、少額のカード利用を不可としていたり、カード手数料分を上乗せして価格決定をしていたりという慣行は未だなくならず、それどころかカードの利用を自粛するように求める風潮すらあるように見える。幸いにしてこの国は現金の質の信頼性が高く、また消費者の支払いにおいても誠実な性向が強いため、手数料負担と引き換えにカード会社から売掛金を必ず回収できる仕組みの魅力を感じず、それがカード利用の否定につながっているとも考えられる。特に小規模な個人商店であればその傾向は強く、それがキャッシュレス化に対する否定的な見解の源泉になっているとも言えるだろう。
 その障壁を解決しうるものは商店などの事業者と、消費者の、双方に対して、キャッシュレス決済を利用することのメリットがあるということを気付かせ、その決済手段の優位性を理解させる施策が求められると考えられるが、「なぜあえてキャッシュレス化に取り組む必要があるのか(現金主義で誰も困ってはいない)」とする意見が多くあり、メリットのアピールが釣り合っていないのが事実だ。そこに「消費税増税による消費冷え込み対策」といういささか強引な手法を持ち込んでこようとしているわけだが、根本的な「利用手数料」の問題は解決していないので、小規模な個人商店であれば、カード端末の導入のコストと併せて、納得できるものではないところが大きいのではないかと考えられる。

 またこのポイント還元という制度は一見すると消費者にとって「良い」施策に見えるが、その実態は著しく公平性を欠くものであることにも気づかなければいけない。単純な話であるが「たくさん消費をした人ほど多くの還元を受けることができる」仕組みであるので、そのたくさんの消費ができるほどのお金を持っているほど、また期間を区切るのであればその期間の中においてたくさん消費ができる人ほど、多くの還元を受けることができる。以前に「プレミアム商品券」という施策が実施されたときのケースを覚えているだろうか、筆者は手持ち資金に余裕のあるお年寄りが朝から販売書に行列をつくっているのを、ただ横目に見ているばかりであった。
 そのような施策を実行することで一時的に消費に与えるインパクトは確かに大きいかもしれないが、そのための費用は広くすべての国民が分担することになるので、再分配の原則(持てる者から持たざる者へ)に反して、持たざる者から持てる者への再分配を発生させることになるものである。
 なお消費増税によって消費が落ち込むことについては有名な論文があり、その中で「一時的に消費は冷え込むかもしれないが、長期的に見れば何も差は生まれない」ということがヨーロッパでの増税をリアルデータとして用いて分析されていることを、経済学部生であれば知っておきたいところである。

 さて、それらの情報を踏まえたうえで、この施策に対する皆さんの賛否はどうだろうか。