経済学部経営学科 Feed

2018-11-22

我慢がいらない豊かな世界へ ― 東 倫広 教授

IT革命による変化

 IT革命は、情報技術の発明によって世界にとんでもない変化をもたらした。90年代からのPCとLANの技術、90年代半ばからのインターネット普及、90年代末からのスマートフォン、2006年以降のAI(人工知能)ブームなど、どれも社会を驚かす革命が起きたが、頻繁な変化に麻痺したせいか、最近「革命」という言葉は耳にしなくなった。

 2018年1月職種別の転職求人倍率は、インターネット専門職(6.10)やソフトウェア開発エンジニア(4.82)、SE(3.26)の方が、経理・財務(1.23)や人事(1.32)、総務・広報(0.89)、オフィスワーク事務職(0.42)より遥かに高い。オフィスアプリの普及によって、ルーティンワークを中心とした一般職の需要は自然と減っていった。

 株式会社野村総合研究所が2015年に発表した試算によると、10~20 年後に日本の労働人口の約49%が就いている職業はAIやロボット等で代替可能になるそうだ。特別な知識・スキルが求められない職業や、データの分析や秩序的・体系的操作が求められる職業は、代替できる可能性が高い。一方、創出するための能力が要求される職業、他者とのコミュニケーション・サービス志向性が求められる職業は、AI等での代替は難しい傾向がある。

 人類が蓄積した知識や経験をミスなく繰り返しに再現できる仕事をAIやロボットに任せて、人類は、新しい知識や経験の創出に専念できるようになる傾向が加速している。

我慢から自分らしさへ

 職業が少ない時代に、人は、我慢したり個性を削ったりして、限られた狭い枠に合わせて無理やり自分を変えなければならなかった。昔の寿司職人は、1年目は洗い場、3年目から飯炊き、8年目から握り、10年目からやっと認められて一人前になる。難関大学に挑戦する受験生は、興味があるかないかを棚上げに、得意でない科目を反射的に答えられるまで暗記しなければならない。

 寿司職人も受験生も目標に対して挑戦し続けることによって、自分の限界を超えた成長を果たすが、途中で諦めたり自分の生まれつきの才能を活かせなかったりして、個人や社会の損失を生じてしまった。

 熟練した寿司職人の技術をもった寿司ロボットは回転寿司の歴史と共に、進化している。おいしく、ふわっと、まるで人が握ったようなシャリが寿司職人も驚くほどできている。お客さんの注文の受付から寿司の完成までできるロボットの実用化はもはや時間の問題だ。

 2013年には国立情報学研究所や富士通研究所の研究チームが開発した「東ロボくん」が大学入試センター試験と東大の2次試験の問題を解読した。代々木ゼミナールの判定では「東大の合格は難しいが、私立大学には合格できる水準」だった。

 今まで人が集まって運営する業界や領域(寿司、入試)は数少なかったため、業界の頂点を目指すために多くの時間をかけて頑張らなければならなかった。激しいグローバル競争は、少ない資源を奪い合う中で、世界大戦に陥りやすくなる。少数の人のためにサービスを提供する業界の数が少ない今の世界は、豊かになったと言えない。

 IT革命が進み、誰もが自由に情報を入手したり、発信したりすることができるようになった。自動化が進み、人間は繰り返しの作業から解放され、余った時間で眠った才能を蘇らせることができる。才能さえあれば、10年もかからずに、一人前の寿司職人になることができる。

 2011年ニューヨーク・タイムズ紙で米デューク大学の研究者キャシー・デビッドソンさんは、「アメリカで2011年度に入学した小学生の65%は、大学卒業時、今は存在していない職に就くだろう」と示唆した。その結果は前述の野村総合研究所の試算とほぼ一致している。

 人類が眠った才能を活かして、今まで存在していない職を作り、より多くの人々にサービスを提供して、幸せな世界を目指す。YoutubeやTwitterなどを通して、同じ考え方を持つ人々を集めてその分野を発展させ、大きな業界にすることもできる。年収数千万以上で、面白いネタやゲーム実況をレポートするユーチューバーは、その一例である。

教育システムの改革

 公益財団法人日本数学検定協会は15日、10月28日に実施した「実用数学技能検定(数学・算数検定)」で、最難関の1級(大学レベル)に東京都内の小学5年生が最年少で合格したと発表した。彼は3歳のころ、両親に買ってもらった立体パズルがきっかけで数の性質に興味を持ち、自分で数学の勉強を始めたそうだ。

 もしこの小学生の両親が立体パズルを買ってこなかったら、こんなに早く自分の興味や才能に気づかなかったのであろう。

 決まった教材を学生に一律施して、その成績で学生を評価する従来の教育システムは、学生の持つ潜在能力を引き出すことが難しい。目覚めるどころか、自分の才能を引き出そうとする自信も喪失してしまっている。

 学生が目標を達成できない時に、「頑張りが足りないからもっと頑張って!」と激励すると、その学生が我慢して頑張ることによって、自我がさらに自分から遠ざかっていってしまう。その結果、ほとんどの大学生は就職活動をする際に自分の強みを履歴書に書けない。企業は新卒の「疑似的な」強みを生かす志望動機を聞いて、数回の面接で合否を判断する。しかし、新卒の入社後、ミスマッチが多発し多くの企業を困らせてしまう。「新卒社員の31.9%は3年以内に辞職してしまう」という厚生労働省2013年の調査結果はこの厳しさを物語る。

 企業はすでに入社後のミスマッチを防ぐために1Dayインターンを実施しているが、教育機関は、未だ一人前になるための土台作りの教育に切り替えていない。いくら挑戦しても達成できない時に、教育システムのアドバイザーは「もっと頑張れ」の代わりに「○○を挑戦してみよう」と助言するべきだ。そうすれば、学生は早く自分の潜在能力に気付くはずである。そのためにも、教育機関は今以上に数多くの教育コンテンツとそれなりの教育方法を開発しなければならない。日本が一日でも早く我慢文化から抜けだせることを願っている。

2018-11-07

AI(人工知能) ― 犬童 健良 教授

 皆さんは「りんな」を知っていますか? これは女子高生を模したAIチャットボット[1]のことです.正直って,私の趣味ではないので詳しくは知りません.でも,会社から与えられた業務なので,今回は無理してでも(自称認知科学者としての意地として)ネタにしてみせないといけません.苦しい選択です.11月6日のCNET Japanの記事[2]によると,日本マイクロソフト社は11月5日,一般公開時期未定ながらスマートフォン向けに「りんな」の新モデルを発表しました.コンセプト動画ではスマートフォンのカメラを「目」として,りんな自身が見たものをユーザに対し,音声でコメントしながら会話できるそうです.マイクロソフトはこのバージョンを「共感視覚モデル」と呼んでいます.

 たかがチャットボットと侮ってはいけません.人と言葉でやりとりするスマートフォンiPhoneのSiriやスマートスピーカーEchoのAlexaのもこの系統の技術です.チャットボットはAIの実用化として最も有望視されるものひとつなのです.施設などの案内,テレマーケティング,コールセンターなど,現在人間が行っている部分に直結するからですが,世界のIT企業であるGoogle(Alphabet),Microsoft,Apple,Facebook,Amazonなどは,AIをそれぞれのビジネスの将来にわたる重要な事業と考えられています.一方,チャットボット程度だろうという観測は,AIに高望みしない意味合いが含まれます.一部の不注意な書き手がAI脅威論に同調して安易にネット記事を掲載することもあるようです.気を付けましょう.

 もちろんチャットボットだけが動くAIシステムではありません.ちょっと前に日本でも国立情報学研究所が開発した東ロボ君[3]が偏差値60近くまで成績を伸ばしました.将棋のプログラムと人間の棋士が対局する電王戦はドワンゴが主催しストリーミング放送されています.Ponanzaは2013年に初めて人間のプロ棋士に勝って以来,圧倒的な強さを見せてきたが昨年の電王戦後に(作者の山本一成氏が)引退を表明した.今年5月のコンピュータ将棋選手権ではヘーフェヴァイツェンというプログラムが優勝している.

 一部の分野ではすでに人間の最高の頭脳を凌駕したAIには,さまざまなタイプの技術と応用分野がありますが,RPA(ロボティックプロセスオートメーション)と呼ばれるようなより簡単な業務的作業の自動化も,AI・自動化という用語の広いくくりに入っていることがあります.

 AI・自動化によって世界中で2030年までに8億人が失業するとの見通しが2017年にシンクタンク(マッキンゼー)の報告書で述べられたことを背景に,AIの実用化の期待とともに,SNSで拡散されるAI脅威論と並行しているのが,第3次AIブームの特色でしょう.AI活用の倫理的なルール作り[4]が産官学を連携して模索されているところです.

 以下ではニュースの解説からはずれますが,少しだけAI開発の歴史を追ってみましょう.ところで,チャットボットは「チューリングテスト」に合格する知能を持つとみなせます.じつはAIはかなり昔から研究されています.チャットボットの原型は,1960年代にMITのワイゼンバウムが作った「イライザ」にあります.コンピュータ画面でユーザと対話するコンピュータプログラムで,オウム返しするだけの簡単な規則で動きますが,ユーザは人の精神科医に助言されている気分になるというものです.このタイプのお遊び用プログラムは人工無能とも呼ばれます.人間に人だと思わせることができれば,知能を持っているとみなせるという解釈もできましょう.ある種の試験に合格する頭脳であることを認めるということです(これが「チューリングテスト」です).

 1956年のダートマス会議ではプログラムを自作した研究者たちが集って,AI研究が本格化したことを世間に知らしめました.当時のコンピュータの性能は最高のものでも今のパソコン以下でした.しかし先進国は国家予算を組んで機械翻訳などのAI開発を競っていました.その後の浮き沈みがあって,「AI冬の時代」を経由し,1970年代から1980年代に一度息を吹き返し,少し遅れて日本が第5世代コンピュータという国家プロジェクトを始めて,論理で動く並列コンピュータ開発を目指し世界を震撼させました.その後インターネットとITの時代に移り,ペットロボットのブームが過ぎると,ときどき再放送されるスピルバーグの映画以外,AIが喧伝されることは久しく.ファービー,AIBO,Pino,Pleoなど,懐かしく思う読者もおられることでしょう.しかしAI研究は地道に続けられ,いくつかの分野で成功を収めていきました.実際,1996年にIBMのスーパーコンピュータ「ディープ・ブルー」がチェスの世界チャンピオンに初めて勝ったことの驚きは,五輪サッカー予選で日本がブラジルを破ったことに匹敵するものでした.日本は予選敗退しましたが,同コンピュータは翌年公式ルールで見事カスパロフ氏を破りました.後年製作されたTVドキュメンタリー番組によると,ディープ・ブルーはそれ以前の規則に基づく推論(探索)に加えて「事例ベース推論」を使っていましたが,大量のデータから勝つパタンを発見するためのさまざまな手法のことをデータマイニングといい,基礎理論は今日のAIやビッグデータ処理にも使われています.映画「宇宙戦争」のトライポッドのように,その技術は地面の下でずっと待っていたのです.ITの時代を経て人間が苦労してデータを入力しなくても十分な量のデータが得られるようになるのを.

 チェスを指すコンピュータの歴史は古く,有名な香具師の大道具(The Turk)は別として,ディープ・ブルーに至る過程で,「強化学習」がチェスプログラムに用いられました.現在脚光を浴びているAIの基礎の一つにもなっている強化学習は,上手にできることは繰り返し練習できるからうまくいくという原理です.これは皆さんのする勉強と同じですね.一度100点満点を取ると勉強したくなるので成績が上がりますが,いやならやめてしまうので身に付きません.

 チェスプログラムと同様にAIで歴史があるのが,言葉を理解するコンピュータの研究です.自然言語処理とか,質問応答システムと呼ばれるものですが, 2009年にはIBM社の質問応答システム「ワトソン」が米国のクイズ番組「ジェパディ!」で人間のクイズ王に勝利しました.IBM社はコグニティブコンピューティングと銘打って,ワトソンの技術を様々な現実の場面に適用していくビジネスを展開しています.より最近ではディープラーニング(深層学習)と呼ばれる手法が応用されたディープマインド社(Google傘下)のAlphaGoが2016年に囲碁チャンピオン イ・セドル氏に勝ちました.自然言語処理と画像理解を融合することで,動画サイトに投稿されていく膨大な動画データを分類して言葉で説明をつけていくのに役立つ技術の一つとして,深層学習は話題になりました.DeepMind社は2017年には改良版であるAlphaZeroがチェスと将棋と囲碁を学習し,それぞれの最強プログラムを破ったと発表し,人の手を借りず,AI自身がAIを生み出せるようになったと宣伝しました.

 発明家・未来学者カーツライルが広めた「シンギュラリティ」(技術的特異点)という用語が社会的な話題になったりもしました.AIが人間の知能を超える日がくるという意味です.スペースXやテスラの経営者でもある富豪のイーロン・マスク氏が,ソーシャルメディアを駆使して自ら営むビジネスを宣伝しつつ,AI脅威論を煽って世間の耳目を集めました.

 お掃除ロボットを洗濯機と同じように家電として使う現代では,人とコンピュータの共同作業・分業はもはや日常のことです.しっかりお掃除ロボの通り道を確保してあげることが人間の役割です.棋士がコンピュータの差し手を研究するのもしかり.将棋のプロ棋士が試合中にカンニングをしたと疑われて報道されるということすら起きています.

 株式市場の熱狂と似て,「AI」と書くと,企業,政府,大学や研究機関で予算が付きやすいということが生じます.専門的な知識や人間のような感性豊かな発想とまったく無縁な,たんなるコンピュータプログラムでも,それまで人が行ってきた作業の一部を代行するなら,AIという名札が貼られる可能性があるのです.俗に「AIハイプ」と言うようですが,AI研究者かつ教育事業家?のロジャー・シャンク氏はこうした傾向について,ブログやTwitter,ニュースメディアを通じてAI冬の時代再来の懸念を表明しています.たしかに世界中のコールセンターのオペレーターがチャットロボットに,あるいはアマゾン.comの倉庫で働く人々が作業ロボットに置き換わったら,失業や業種間の労働力の移動が起きるのは当然です(オフショアの知的労働はグローバル化された経済の特色なので,国際関係がらみでもありましょう).労働を機械に置き換えるかどうかは,もちろん倫理の問題がからみますが,結局のところ,投資がペイするかどうかという経済性の経営判断なのです.

 古典的なAIはプログラミングが得意な研究者が知的な作業をさせるコンピュータを自作したものでしたが,第五世代プロジェクトが目指したのは論理や規則で動くコンピュータであり,ヒト特有の共感や感性や勘とは対極にあるものでした.そこで今の深層学習につながるが,やはり古くからあった脳型コンピュータの研究や人類学者も交えた状況学習理論といった反論理性(失敬)に基づく手法に光を当てることにもなったようです.コンピュータにまねできないことができても無価値とみなされるのが,冷徹な市場の論理であり,そこに人間は不安を感じるわけです.

 企業や国家がAIに注目し多額の投資や予算をつけるようになってきているようです.Wikipediaの「AI」についての記事は,いろいろ問題点が含まれるようですが,各国のAI開発の状況が参考になります.米国の脳研究プロジェクト「BRAIN Initiative」,フランスのAI分野への開発支援予算とイギリスとの長期的な連携, EUの「Horizon 2020」計画など,アジアでは韓国が2022年までに20億ドルを投資する.先日は日本とインドのAI分野の共同研究開発が日本経済新聞などで報じられた.中国では第13次5カ年計画で2016年からAIを国家プロジェクトに位置づけた.複数専門家による見解として,ヘルメットや帽子にセンサーを埋め込んで国民の脳波を監視するプロジェクトやAIによる管理社会化の同技術を,中国は中東・アジア・アフリカ・南米などに輸出しており,人権抑圧に利用される可能性が懸念されている.また中国は2013年以降ディープラーニングに関する論文数で米国を超え,AI覇権国家に向かって進もうとしています.

 さて,最後に,2016年1月に没した人工知能の研究者マービン・ミンスキー氏は,晩年の著作『感情をもつ機械』(イモーショナル・マシーン.邦題は『ミンスキー博士の脳の探検:常識・感情・自己とは』(竹林洋一訳))において興味深い論考を示しました.ミンスキー氏といえば,知識表現の「フレーム」理論や「心の社会」という考え方でよく知られていますが,同書における基本的な観点は,「感情は思考を阻止する」という点です.常識的ともいえるこの観点をつきつめて学術的に論じた研究はまだないと思われます.しかしその発想は明らかにミンスキー氏が若い頃に勉強したある数学を背景にしていることがうかがえます.

 GANs(ジェネレーティブ・アドバーサリアル・ネットワーク;敵対的生成ネットワーク)と呼ばれる手法は,ディベート的な戦法です.GoogleのAI研究者たちが最近のAIを支える重要な戦略とみなしているものですが,詳しい仕組みは明らかにされていません.同上書の中でミンスキーは20世紀初頭の行動主義者を,ある種の選択バイアスに陥っていると診断している件があるのですが,それは理解できなくても動くものを作って満足するAI研究の揶揄ではないか,と思える節があります(ビジネス上秘密にしたい動機もあると思われますが).だからといって,動かなくても理解できれば良いとも,いいにくいのですが.ミンスキーが示した思考の阻止としての感情,それを脱出するのに役立ついくつかの思考の道(それは反対に感情の阻止としての思考でもある)が提起するのはそこかもしれません.いや,これはたんなる勘ですが.

 ロボット三等兵という昔の漫画があります.ロボット三等兵は戦闘用ロボットとしては無能でありながら,感性豊かな人間性をもっています.これは語弊かもしれませんが,本当は賢くなくても役に立てばよいのだという考え方は「弱いAI」と呼ばれます.「強いAI」は人間らしい精神を持ったコンピュータを開発しようとします.認知科学の旧来からのスタンスもまたGANs的です.工学者がどんなに便利なAI,ヒトに似せたAIを製作しても,人とは異なるものだと批判を試みます.いわばヒトの知能の深いところを理解するための反面教師としてAIを役立てようとしているわけです.ちなみに,行動経済学者が,標準的な経済学の仮定する架空の人類(ホモエコノミカス;エコン)を標的として,本当の人類(ホモサピエンス;ヒューマン)をモデル化しようとしているのと,どこか似ている気がいたします.ヒトの知能や意思決定を,感情型のシステム1と熟慮型のシステム2が拮抗するデュアルプロセス(二重過程)とみなすアプローチは,認知科学および行動経済学で注目されています.

参考URL
[1]マイクロソフト.りんな女子高生AI.https://www.rinna.jp/ (2018年11月7日閲覧)
[2] engaget日本語版(金子 麟太郎).日本マイクロソフト、スマホ向けのAI「りんな」を発表:「共感視覚モデル」の搭載により、自然な会話が可能に. 2018年11月5日  https://japanese.engadget.com/2018/11/05/ai/ (2018年11月7日閲覧)
[3] 国立情報学研究所.ロボットは東大に入れるか.プロジェクトの紹介.https://21robot.org/introduce/index.html (2018年11月7日閲覧)
[4] 日刊工業新聞.失業するかもしれない…AI脅威論の払拭を模索する研究者たち
産総研がAI三本柱戦略. 2018年6月19日.https://newswitch.jp/p/13360 (2018年11月7日閲覧)

2018-10-26

「米中貿易戦争」と「1980年代の日米貿易摩擦」の違いを考える ― 紋谷 廣徳 教授

2018年9月19日の朝日新聞によると、「対中関税 日用品に拡大」、「中国、関税以外も反撃へ」「米、消費者や企業に打撃」等の見出しが目につきました。 また「対中関税 輸入の半分対象」「米、中間選挙にらみ9月24日に第3弾」等、米中貿易摩擦が取り上げられています。

 概要説明では「トランプ大統領が9月17日、中国との通商紛争で本格的な拡大に踏み切った。 知的財産への侵害に対する制裁を主張しながら、生活用品などを幅広く対象とする高関税制裁処置の第3弾には、米国内外からの批判が相次ぐ。11月の米中間選挙を見据えるトランプ氏は強気の姿勢を崩さないが、紛争が泥沼化すれば、日本を含め、世界規模での影響が広がりかねない状況だ」

アメリカの対中国貿易赤字

 この貿易摩擦の発端はトランプ大統領が「米国の対中国貿易の赤字が大きく、不公平であり米国が被害を被っている」とのコメントからです。2017年度の中国の対米輸出総額は5,050億ドル(約55.5兆円)、米国の対中輸出総額は1,300億ドル(約14.3兆円)でした。米国の対中国貿易赤字は3,750億ドル(US$=110円で 約41.2兆円)となります。 この貿易赤字対策として米国は中国製品の輸入に対して関税引き上げを実施しました。 これに対して中国も米国からの輸入品に対して関税引き上げを実施しています。 つまり相互に「報復関税」を実行しているわけです。既に米中貿易戦争の影響は出てきており、IMFでは世界の経済成長予測を下方修正しました。 特に当事者である米国、中国での経済成長率の低下は顕著になっています。 ちなみにアメリカの対日赤字は688億ドル(約7.6兆円)であり如何に対中貿易赤字が大きいかがうかがえます。今回の報復関税には日用生活品が入っておりアメリカの消費者に直接影響を及ぼすことになります。(日用生活品に関しての報復関税適用はクリスマス後の2019年からと消費者への影響を避けた形になっています。) トランプ大統領は「自分たちは被害者である」と言っていますが、経済の原則から行けば競争力のある製品(安くて良いもの)であれば消費者は購入します。

実態
 米国企業が中国へ進出し、安価な労働力を活用し、生産・販売活動を実施、製品を中国国内と米国等国外に輸出しています。中国国内での米国企業の売上高・利益は連結決算として米国にある本社の売上高・利益に加算されます。実態はなかなかつかみにくい所がありますが、米中政府による水面下での交渉の行方が注目されます。経済戦争でなく政治戦争の色合いが強いことは否定できません。今回の米中貿易戦争の対象品目は軽工業品が中心であり、1960年~70年代にかけて発生した日米貿易摩擦に似ているかもしれません。 しかし貿易取引額は日米貿易摩擦とは比較にならないほど高額になっています。

1980年代の日米貿易摩擦(特に自動車産業)と日本企業の対応

 1980年代の自動車を中心とした日米貿易摩擦は日本企業のグローバル化を加速させました。日米貿易摩擦の歴史をさかのぼると、 1950年~1960年代は繊維製品、 1970年代は鉄鋼・カラーテレビ、 1980年代初めは自動車、 1980年代後半は半導体、と日本から米国への輸出が貿易摩擦の要因でした。繊維製品から半導体までの製品を見ますと、低付加価値製品から高付加価値製品に移行していることが分かります。  その後は米国から日本に対し市場開放を求め1991年は牛肉・オレンジの輸入自由化、1999年はコメの自由化(関税化)が始まりました。 直近ではTAG(日米物品貿易協定)締結に向け新たな交渉に入ることで合意しました。但しTAGは日本政府の立場での考えで米国はFTA(自由貿易協定)との見方をしています。

 一方外国為替は金本位制度を基軸にしたUSドルの固定相場制から変動相場制に変わり、US$は360円から現在の110円になりました。米国では低付加価値製品を輸入し高付加価値商品を開発・製造・販売(輸出)するスタイルを継続してきました。航空機産業はその一例です。しかし日本における経済発展に伴い、日本で高付加価値製品(自動車・半導体)を製造販売するに至り米国の経済活動・企業活動を脅かす存在になってきました。1980年代の自動車輸入規制が端的な例です。

日本の自動車産業の対米経営戦略

 アメリカでの環境規制、省エネ対策に対し日本自動車産業の取り組みが早く、また消費者への浸透と信頼を勝ち得たことにより、日本の自動車の需要が増加するようになりました。当然ですが対米輸出が増加するようになりました。 アメリカ政府は自国自動車産業保護のため、日本車の輸入規制に踏み切りました。日本の自動車産業はアメリカ市場でのビジネス拡大をめざし現地生産を決定・実行に移しました。 アメリカ生産の実施はアメリカでの雇用拡大に大きな貢献を果たしただけでなく、日本の自動車産業に部品供給している企業も同時にアメリカ現地生産に踏み切るようになりました。 ここでも新たな雇用を創出することで日米の貿易摩擦の解消につながりました。ちなみに1985年の自動車の輸出台数は310万台、現地生産は30万台でした。 2017年度の日本からの輸出台数は170万台、現地生産は380万台です。 アメリカ・ラトガース大学経済学部のトーマス・ブルーサ教授がまとめた報告によると、日本の自動車会社が米国で150万人超の雇用創出に貢献しているとのことです。日本の自動車会社に勤務している従業員(開発・製造・販売)の他に日本の自動車会社に部品供給している企業等関連企業の合算と思われますが、アメリカ人雇用への貢献は大きいと言ってよいのではないでしょうか。 また日本の自動車会社への部品供給のため現地生産拠点を設置した日本の部品供給会社は、日本の自動車会社のみならずアメリカの自動車会社との新しいビジネスを開拓・獲得することで経営拡大を図っています。

日米貿易摩擦から学ぶ米中貿易摩擦の今後

 米中貿易戦争は政治的色彩の強い貿易戦争になっています。安くて良い製品を購入するのは経済原則です。現在中国からの対米輸出品目の中心は安価な人件費をベースにした生活用品です。この商品をアメリカで現地生産することは考えられません。また現在主力輸出製品の繊維製品、雑貨はいずれ中国より人件費の安い国に取って代わられるでしょう。 日本、韓国同様、中国の経済発展に伴い人件費も上昇していくことにより、低付加価値品の国際競争力は低下していくようになります。 このため将来を見越した付加価値の高い製品での貿易が必要になります。付加価値の高い製品であればアメリカで現地生産・販売することでWin-Win関係を構築することができるでしょう。 現在の貿易戦争は政治決着以外での解決策を見つけるのは難しいのではないかと思われます。アメリカが一方的に中国に対して圧力をかけているのでなく、中国も知的財産案件・技術移転案件等、アメリカが不満を示す要因を持っています。 

 そこで重要なのがWTO(世界貿易機関)の役割です。本来貿易紛争の行司役ですがその機能・役割を果たしきれていません。本来WTOが米中貿易戦争を解決しなければならない立場ですが無力さが際立ちます。もう一度WTOの役割と権限を見直し、貿易紛争に対する裁定強化を図る必要があります。そのためには世界各国が協力してWTOの権威と権限を決め、尊重することが肝要です。

2018-06-14

中国はどのようにして経済成長へ踏み出したのか - 金 花 講師

 今日,中国は急速な経済発展を実現し,世界から高い関心を集めている。例えば,ファーウェイ,アリババ,レノボなどの中国企業のニュースは毎日のように取り上げられている。そして,これらの企業は世界的にも先進的な企業として見られることも少なくない。しかし,中国におけるハイテク産業は,近年になって突如現れたわけではない。そこには数十年にわたる背景が存在しているのである。

 そもそも経済発展を新たに成し遂げるためには,その国の従来の戦略とは異なる経済上の対応が求められる。すなわち,経済発展には産業を創出すること,特に現代ではハイテク産業を創出することが重要である。中国の経済発展においても,勿論,ハイテク産業への取り組みが進展してきたのである。

 しかし,ハイテク産業を創出するといっても,市場経済が依然として未成熟な社会においては,それは容易な取り組みではない。かつての中国もそのような状況にあった。1978年に改革開放が実施された時点において,それまで計画経済体制の下にあった中国の企業には,産業を創出し牽引できるだけの十分に自立的な能力があったとは言えなかったのである。では,ハイテク産業の創出が求められながらも,その時点で既存の企業がその担い手になり難いという問題に,中国はどのように取り組んだのだろうか。

 この点については,中国では1978年の改革開放以降,国家主導的にハイテク産業の発展戦略を推進し,その戦略の中に産学官の連携が取り入れられた点が特徴的であった(下表参照)。例えば,ハイテク技術の開発を目指した「863計画」や,その産業化を目指した「タイマツ計画」などが代表的なものとして挙げられる。従って,中国の産学官連携は,国家戦略上,企業の産業創出能力の不足を補い産業の創出と成長の加速に貢献すべきものとして位置づけられてきたのであり,中国のハイテク産業化の展開には,産学官連携が密接に関わってきたのだと言える。

ハイテク産業と産学官連携に関する主要な政策の推移
1978年 鄧小平によるスローガン「科学技術は第一の生産力である」
1978年 改革開放
1985年 科学技術体制改革に関する中共中央の決定
1986年 ハイテク技術発展計画:通称「863計画」
1988年 火炬(タイマツ)計画
1993年 中国教育改革と発展要綱
1995年 「科教興国」戦略

(出所)筆者作成

 政府の政策のもとでハイテク産業の創出が目指され,また,育成政策の実施の中で産学官連携に重要な位置づけが与えられることとなった点を指摘したが,当然ながら,その要請に大学や研究機関がどれだけ応えようとするのかという点も重要な点である。結論を先取りすれば,中国においては産学官連携が発展したが,その背景には,大学制度の改革の中で生じた大学を巡る環境の変化があった。中国では,計画経済から市場経済への転換過程において,高等教育体制についても改革が行われた。そこでは,競争原理の導入により,より重要視される大学・学科が明確化され,一方で大学経営の自立化が進められることになったのである。特に後者の点から,大学側も産学官連携に積極的に対応すべき状況が生まれていたのである。

 現在は民間企業も成長を遂げ,世界的に注目を集める企業が多数生まれている。しかし,そうした企業が生まれるまで経済成長に向けた推進力となったものが産学官連携だったことは見逃せない点である。今日の知識社会では,トリプルヘリックス理論(Etzkowitz,2008)で議論されるように,大学・産業界・政府の相互作用がイノベーションの創出と成長における鍵だとされているが,中国においてはこうした作用を経済成長に向けた初期段階で発揮し,今日の社会に向けた第一歩としたのである。

2018-05-30

自動車メーカーの技術開発 ― 間普 崇 教授

 2018年5月、トヨタ自動車は、2018年3月期連結決算(米国会計基準)の純利益が、2兆4939億円だったと発表した。この利益額は、日本企業で過去最高の金額であり、トヨタ自動車に代表される日本の自動車産業は、日本の経済を支えている主要な産業の一つであるといえる。この「ニュース解説」では、特に自動車産業、自動車メーカーの今後について、技術開発という観点から見てみることにする。

 およそこの10年間、各自動車メーカーから販売される主力となる自動車は、環境性能に優れたいわゆるエコカーが多く、購入する側も、その車の燃費性能を非常に重視するようになっている。さらに、ここ数年の各自動車メーカーのテレビCMなどを見ると、燃費性能とは違う新たな性能をアピールしているように感じられる。ここでいう新たな性能とは、例えば、追突を防止する「自動ブレーキ」、ペダルの誤操作による急発進を防止する「踏み間違いサポートブレーキ」、車庫入れなどを支援する「駐車アシスト」、そして運転者が操作不要となる「自動運転」などのことである。環境にやさしいという燃費性能に特化したエコカーの次の世代の新しい車とは、こうした機能を備えたものとイメージしてよいであろう。

 日本の各自動車メーカーの経営トップのメッセージには、これからの自動車の進化の方向性を表す言葉として「エネルギー」、「コネクティビティ」、「自動運転」などのキーワードが使われている。「エネルギー」という言葉は、燃費性能に示されるように、いかに効率よく走ることができるか、また、環境への負荷をいかに少なくできるかという側面を意味している。「コネクティビティ」という言葉は、通信機器への接続や、それによる車両外部のデータを活用する機能のことをいい、もう一つのキーワード「自動運転」の実現と密接な関係を持ち、自動運転を支える技術であるともいえる。

 車の自動運転を実現するためには、これまで自動車メーカーが技術を培ってきた分野とは異なる分野での技術の革新が必要となってくる。例えば、自動運転する車は、カメラなどのセンサや無線通信によって得られる地図情報などをもとにして、自車の位置や走行状況などを正確に認識するために、必要な情報を収集し分析する機能を備える必要がある。また、必要な走行情報を収集した上で、それを分析し、車が次にどのような行動をすべきかを的確に判断、決定することが求められ、車にこのような機能を持たせるために、人工知能を活用することも考えられているそうである。

 このように、近い将来われわれが接する車は、従来の車には無い全く新しい機能を備えたものになると考えられる。そして、そのことは、これからどんな車が現れるのかを考える際には、各自動車メーカーが先に述べたような技術分野での開発にどのように取り組み、どのような成果をあげているかを知る必要があることを意味しているといえよう。

2018-01-15

EUと国境を考える ― 紋谷 廣徳 教授

2018年1月4日の朝日新聞朝刊の記事では、「2018年試練の欧州」の特集記事で タイトルが「英のEU離脱 さらに難局」、「国境問題 英の主張矛盾」・「貿易ルールの行方 焦点」との副題がついていました。記事は次のような文書で始まっています。

・・・・・ 英国の欧州連合(EU)からの離脱交渉は今年、本丸の通商協議など「第2段」に入る。2019年3月の離脱をめざし、EUからの移民を制限しつつ単一市場の恩恵は受ける「いいとこ取り」を狙う英国に、EUは厳しい態度を変えていない。実質的な期限の18年10月に向け、交渉はさらに難航しそうだ。・・・・・

ご存知のように2016年6月に英国の国民投票で離脱支持が過半数となりました。そして2017年3月に英国がEU離脱を正式に通知しました。英国の通知を受けEUと英国の間で離脱交渉が2017年6月から開始されました。

今回のニュースより 1.国境問題 2.貿易ルールの行方 焦点 検証していきます。

1. 国境問題

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」 これは川端康成の小説「雪国」の冒頭の句です。上越国境の清水トンネルを抜けた湯沢温泉が小説の舞台となっています。ここでの国境は上野国(群馬県)と越後の国(新潟県)の国境です。 今の県境です。しかし現在日本で生活しているほとんどの人は国境を意識したことはないと思います。

昭和30年代、私が小学生だった頃、男の子の間で「38度線」という遊びがありました。子供達は「38度線」の意味も分からずに遊んでいました。これは「38度線」という格闘的な遊びです。2組に分かれて線を引き、境界線(38度線)をはさんで相手を自陣に引っ張り込んだり、相手を境界線の外に押し出したりして相手の組の人が0人になったら勝ちとなるゲームです。実はこの38度線は第二次世界大戦末期にアメリカ軍とソ連軍が朝鮮半島を北緯38度で2分したことに起因します。朝鮮半島に国境が出来ました。また1953年に休戦した朝鮮戦争で北朝鮮と韓国の「国境」が置かれたのが北緯38度線上でした。 つまり「38度線」の遊びは国境をはさんでの陣地取合戦です。最近の出来事では、38度線上にある南北朝鮮国境(板門店の軍事境界線、北朝鮮軍・韓国軍・国連監視軍が警備にあたっています)で北朝鮮の兵士が韓国に亡命を試み、銃撃を浴びましたが一命を取りとめた韓国軍に保護された話はまだ皆さん覚えていると思います。 

「国境」について、身近な例ですと皆さんが海外旅行(外国旅行)される時、成田空港・羽田空港でパスポートコントロールを受けます。パスポートコントロールが済み航空機に乗り込むまでの間に免税店で買い物をされる方もいるでしょう。実はこの場所は日本国内ではないのです。外国にいることになります。でも誰も日本国外にいると思う人はいないでしょう。入出国管理(パスポートコントロール)が国境ということになります。

日本は島国で他の国と陸を接していません。しかし多くの国は他の国と陸地で接しています。江戸時代、国境に「関所」が設けられていました。例えば「箱根の関所」です。この関所が現在の国際空港にある「入出国管理・検問」に相当します。飛行機で外国に行ってもあまり国境を意識するようなことはありません。やはり国境を意識するのは陸地続きの国境で検問を体験した時だと思います。

ここで私が欧州出張時・在勤時に国境を意識した体験例を紹介します。

  • ベルリンの壁崩壊前、西ドイツと東ドイツの国境が接しているヴォルフスブルグ/Wolfsburg市にあるフォルクスワーゲンの本社に出張した時のことです。現地のスタッフが「近くに東ドイツが見える場所があるので紹介する」とのことで国境線に行きました。西ドイツ側には国境を一望できる見晴台があるだけで、西ドイツ兵はおりません。目の前は東ドイツです。 東ドイツとの国境は小さな川でしたが、東ドイツ兵が機関銃を持ち、シェパードを連れて監視・警備している姿を目の当たりにして背筋が凍る思いをしました。
  • 1980年、まだEU設立以前にフランスからオランダに車で出張した時のことです。フランスとベルギーの国境では高速道上に検問所が設けられ、そこには兵士が国境警備にあたっている光景がありました。パスポートコントロールと荷物検査があり国境を通過することが出来ました。しかしベルギーとオランダの国境はベネルクス3国の協定で国境検問はありませんでした。
    EU設立後に多くのEU加盟国間と近隣諸国間で国境検問廃止の協定(シェンゲン協定)が適用され一部の国を除きEU加盟国の移動はより簡素化(国内移動と同じ)されました。しかし英国への出入国にはパスポートチェックが残っています。
  • 第3の事例はスイスです。スイスはEUに加盟していませんがシェンゲン協定には加盟しています。スイスと国境を接するフランスから自動車で入国しました。スイスに入国すると同時に道路使用税(年間)を支払います。具体的には道路使用税支払い済のステッカーをフロントガラスに貼ってもらいます。パスポートチェックはありません。

今回朝日新聞が取り上げていた国境問題は英国と隣接しているアイルランド国と英国内の北アイルランドとの国境問題です。同一民族ですが宗教上の問題で分離しています。しかしEU設立後両国は経済活動等において物理的な国境はなく人やモノなど自由な移動がなされていました。

新聞記事ではアイルランド国と北アイルランドに国境をまたいでの製造・販売拠点を設けている企業活動があり、英国のEU離脱で企業活動がどうなるのかの懸念が示されていました。英国は例外としてアイルランドとの交易は今迄通りにして欲しいと主張していますが、EUは、例外は認めないとの考えを崩していません。EU市場に対して、アイルランドと北アイルランド(英国)で交易基準が変わる可能性が出てきます。具体的には関税が発生し、輸出入基準等も変わります。 国境問題はEU/EPAの経済活動に大きな影響を及ぼすことになります。 EU加盟国間では人・モノの移動が自由になりました。そしてアイルランド国、英国間もEU加盟国同士でEUの自由な交易を享受してきました。英国のEU離脱はアイルランドとの間に国境・検問を設けるという問題を提起しています。アイルランドはEU加盟国ですからEUの決定に従うことになります。ビジネス取引も英国中心からEU諸国中心にシフトしていくことで生き残りを図ることが考えられます。

2.貿易ルールの行方 焦点

EUは加盟国の間で「人・モノ・サービス・お金の移動の自由」を掲げる。国は違っていても、市場は一つ。域内の貿易は関税がかからず、輸出入手続きも簡素化されているのが特徴だ(朝日新聞記事より)

英国がEUから正式離脱をすると、英国から欧州大陸向けの輸出に対し輸出入手続きが必要になります。先ず輸出入書類と荷物の検査が必要になり、今までの数倍の時間と人数が必要になります。 また当然ですが「関税」がかかるので英国製品の競争力低下が考えられます。当然ですが輸入製品に関してもEUからの製品に対して英国内で輸入審査と関税が新たに追加されます。EUは英国の離脱交渉には毅然とした姿勢で向かっています。 例外は一切認めない強い考え方です。EU加盟国の連帯をより確固たるものにするためにも、また他の加盟国が英国のような離脱を考えないよう一枚岩で対処が必要になります。

英国のEU離脱の目標は、「モノの自由な移動を確保し、人の自由な移動を制限したい」です。これに対してEUは「いいとこどり」は認めないとのスタンスです。また英国が現在享受しているEUの金融センターの役割を維持できるかが大きな焦点です。EUへの金融サービスが出来るか否かが今後の英国経済発展への大きな課題になってきそうです。 既に英国のEU離脱を受けドイツ、フランス等の金融機関がEUの金融センターを自国内に作ろうと活動を開始しています。

欧州内を出張して気が付くのは英国内に「両替所」が多いことです。空港内、ロンドン市街に多く目につきます。金融機関の両替手数料は大きな収入源になっています。
EUの統一通貨として「ユーロ」が誕生しました。今では欧州域内を旅するのにユーロがあればほぼ大丈夫です。ユーロ使用国間では「為替・通貨の交換」は不要です。しかし英国は「英国ポンド」を維持しており国際取引通貨として存在感は保持しています。 欧州大陸主要国では「英国はヨーロッパではない、アメリカだ」ということを聞きます。 欧州大陸と一線を画している印象があります。欧州大陸と英国では歴史的な要因も含め考え方に差異があるように思います。 

EUはEPA(経済連携協定)の最も進んだ形態だと言えます。ベルリンの壁崩壊後に旧社会主義国がEUに加盟するようになり欧州共同体は拡大してきました。水が高いところから低いところに流れるのと同じで、所得の低いEU国民が高いところに移動するのは避けられない現象です。今回英国におけるポーランド人の移民増で英国人が職を奪われたとの問題がEU離脱の一因になっています。しかしポーランド移民増の経済的恩恵を受けていることも事実です。アメリカ合衆国のトランプ大統領が「アメリカファースト」を提唱しているなか、EU主要国においてもトランプ現象(自国優先運動)が高まっています。EUは社会・経済活動に関して、世界の将来の進むべき方向であり、モデルであると思います。今回の英国のEU離脱も自国民優先からきている面もあります。

今後の世界平和、共存共栄等を考える時、EUのコンセプトが参考になると思います。しかし各国の利害関係もあり理想に近づくのは多難です。 今回の英国のEU離脱交渉の成果・結果が次世代のあり方を教えてくれるかと思います。 その為にもEUと英国の離脱交渉の動向を注視していきたいと思います。

2017-07-05

企業はなぜCSRに取り組んでいるのか? - 金 宰弘 講師

 今世紀に入り、企業の社会的責任という言葉が頻繁に聞かれるようになった。企業の社会的責任は、Corporate Social Responsibilityの頭文字をとってCSRと略称されるが、今では、企業経営における重要な経営戦略の1つになっている。21世紀の初めに、EUがCSRを政策目標として揚げた時から、CSRという言葉は世界のビジネス界での共通言語となったのである。EUでは、2011年の文書でCSRを「企業の社会に対する影響への責任」と定義しており、企業に対して「社会的責任を果たすためには、環境、社会、倫理、人権、消費者問題を、ステイクホルダー(利害関係者)との密接な協力のもとで、中心的な戦略に統合するためのしかるべきプロセスを持つこと」を要求している。
 しかし、企業がCSRに取り組むには、しばしばお金がかかる。地球環境に配慮するために電気自動車を導入しようとすると、その購入費用に加えて、充電設備の設置費用も必要になる。お菓子会社が自社のチョコレート原料をフェアトレード製品に切り替えようとすると、より多くの材料調達費用が必要になる。そのため、お金を儲けることを目的としている企業は、CSRに取り組むことにためらうケースもあるだろう。また、どの企業も無尽蔵にCSRの取り組みを広げていくことはできない。それでは、利益を追求することを目的とする企業はなぜ費用がかかるCSRに取り組んでいるのか。
 企業がCSRに取り組む理由には、大きく2つの側面がある。1つは倫理的な配慮である。企業やその経営者も社会の一員であるため、企業活動を通じてお金を儲けるたけでなく、環境問題や人権問題に配慮したいと感じることは自然なことである。例えば、会社を設立した創業者本人やその家族が社長やCEOとして経営に携わっている場合には、自身や家族のアイデンティティが会社に与える影響も大きいため、会社にも倫理的な振る舞いを求めることがある。また、企業の巨大化によって、今日の企業は社会に与える影響が大きくなったため、企業に求められる倫理的な実践も増えてきた。例えば、環境に配慮した製品を提供することや女性役員を積極的に登用することなど、法令では規定されていないものの、企業を取り巻く様々なステイクホルダーが企業に倫理的な活動を要求している。
 企業がCSRに取り組むもう1つの理由は、CSR活動を通じて環境および社会に配慮することが会社の利益に結び付くという経営判断のためである。「CSRに取り組むことで会社は儲かるのだろうか。それともCSRはお金のかかるばかりの慈善事業なのだろうか。」と疑問を抱くことがあるかもしれない。この問いに簡単に答えを出すことはできないし、企業のCSRが会社の儲けに必ずしも結び付くわけではない。ただし、CSRと儲けの関係を理解することで、工夫次第でCSRは企業の儲けに貢献できる。実際に、企業が倫理的に行動することは求められることではあるが、CSRの普及に大きな影響を与えることができるのは、資金調達コストの軽減や企業パフォーマンスの向上などの経済的要因である。
 世の中の多くの環境問題や社会問題などが生じている。それを克服するために必要な手段がCSRなのである。短期的な目で見るとCSRはコストでしかないかもしれないが、長期的、戦略的な目で見るとCSRは企業の成長を助け、リスクから守る投資になりうる。これまでのようなお金の丸投げや事業と関係の薄い社会貢献ではそれは達成できないため、CSRには戦略的に企業活動に結び付けて取り組まないといけないのである。このことを多くの人が理解すれば、CSRによって未来を拓くことが可能であると考えられる。

2017-05-19

ストレスは健康と幸せの人生を作る - 東 倫広 教授

ストレスの仕組み

 ストレス(stress)は、肩こりをはじめ、めまい、頭痛、糖尿病、心臓病などの身体的な病気を引き起こす。精神的な面においても、イライラ、緊張、落ち込み、やる気が起きない、現実逃避したいなどの症状として現れる。その結果、引きこもりによる不登校・出社拒否、拒食症や過食症、様々な依存症、衝動買い、いじめや自殺などの社会問題に発展することもある。

 人類は、地球上の限られた資源を奪い合うという世界規模の競争に巻き込まれ、過去にないストレス源(ストレッサー)と直面している。現代社会におけるストレスは、人から受け、また周りの人に与えるといった連鎖を起こし、その強さは増していく。

 乳児は生まれてからママの不機嫌さに影響を受け、ストレスを抱え始める。そこから死ぬまで自分のストレスと付き合いながら学習していく。しかし、今の子どもたちは、わが子を溺愛するあまり、過保護になる保護者に、その学習の機会が奪われている。

 そもそもこの悪役とも思えるストレスが、なぜ人体に仕組まれているのか。

 人は環境が要因となって危険、事故、戦争、怒り、重い病気、将来への不安などのストレッサー(stressor)を受けた時に、血圧・体温・血糖値・筋緊張を上昇させ、脳により多くの酸素を送り込んで、その後の行動に備える重要な役割を担う。

 しかし、ストレッサーを解決できない・ストレッサーから逃れられない場合、この興奮に近い状態が続くと、人はさらなる不安を感じ、ストレスの症状が出てくる。さらに慢性的なストレスが長期化すると、血管の壁が太くなり、心臓病や糖尿病など死に至る病気に発展する。

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2017-04-27

白やぎさんからのメール - 犬童 健良 教授

やや長い話になりますが,以下はある最近のニュースにかかわるある問題を紹介するためのものです.白やぎさんと黒やぎさんは,2つの山に挟まれた谷に流れる川沿いで来週赤牛さんが開くバーベキューの会合にそれぞれ招かれた.いろいろなしがらみから,白やぎさんと黒やぎさんは赤牛さんの招きを拒否できない.赤牛さんは月曜から金曜のどの曜日でもいいから都合の良いときにきてくれと言う.実は,赤牛さんは白やぎさんと黒やぎさんを別の日に招いて,バーベキューにして食べてしまおうという悪意を隠し持っている.逆に,黒やぎさんと白やぎさんが同時にくると,赤牛さんをバーベキューにして食べてしまうことができるし,もちろんふつうに用意された肉だけ食べて帰ることもできる.そこで白やぎさんは黒やぎさんと同じ日に赤牛さんのところに出かけたいと考え,黒やぎさんに来週月曜に赤牛さんの谷にでかける考えを伝える電子メールをしたためた.ところで,赤牛さんは実はインターネットテクノロジーに精通したハッカーでもあり,白やぎさんや黒やぎさんのメールサーバーをハッキングしてメールを届かないように妨害することも可能である.ただし暗号化技術によってメール文面自体の改ざんは不可能であるものとする…
 1時間後,黒やぎさんから返信があった.「前略白やぎ様 了解しました.ぼくも月曜にいく.黒やぎより 草々」.さて,もしあなたが白やぎさんだったとすると,月曜に赤牛氏のところに出かけますか? 友人と居酒屋に出かけるような気楽な状況なら,何の疑問もなくそうするでしょうね.これが現実の居酒屋のできごとで,もし黒やぎさんがこなかったとしたら,「黒やぎのやつ,来るといってこなかった」といった笑い話で終わるでしょう.ところが,よく考えてください.もし黒やぎさんが月曜にこなかったら,赤牛さんにあなたは食べられてしまうわけです.あなたは「えっ.そんなことはあるはずがないだろう.黒やぎさんは了解のリプライをしてきている.」と反論したくなったかもしれません.しかし黒やぎさんの立場で考えれば,自分の返信したメールを白やぎさんが読んだという保証はどこにもないですよね.もし白やぎさんが返信を読んでいないとすると,白やぎさんは黒やぎさんが月曜にくる確信がもてません.このため白やぎさんは最初のメールで述べた計画を覆して家に留まるかもしれない.もしそうなったら黒やぎさんは自分だけ月曜にでかけて赤牛に食べられてしまうでしょう.ですから,黒やぎさんはでかけたくなくなるわけです.では,どうしたら確信がもてるのか.白やぎさんはもう一度「黒やぎ様 あなたの返信を読みました.どうもありがとう.白やぎ」というメールを送るでしょう.しかし今度はその返事が黒やぎさんからくるのを待たなければなりません.こうして2人(?)はいついつまでもメールのやりとりを繰り返すことになるのです,…たぶん翌週の木曜の夜までかかるので,金曜にいかざるを得なくなる.めでたく赤牛をバーベキューに…,赤牛はこれを予期して逃げ出すことになるから,そうならないようもっと早い時期にメールを不達にして各やぎを別々にやってこさせようと画策するでしょう.
 これはビザンチン合意(あるいは将軍たちの協調攻撃)問題として,コンピュータ科学,とくに分散計算システムの故障判定に関連する問題として,古くから知られています[4].要塞都市ビザンチウムを包囲した将軍たちが町を陥落させるためには同時に攻撃しなければならず,そのタイミングをどうやって合意するのかという問題ですが,上で述べたストーリーはその将軍の人数が2人(赤牛も入れて3人)の最も基本的なケースです.またこのパズル問題にかかわる最近のニュースというのは,ブロックチェーン[1],あるいはその技術の応用であるビットコイン[5]にかかわるものです.この技術は2008年に発案されて以来,世間で注目されて久しいのですが,ウェブ検索すると,ここ数か月で多くの記事が掲載されていることがわかるでしょう.

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2016-12-21

アルバイト・パート年収「103万円の壁」見直しへ - 加藤 美樹雄 准教授

 政府・与党は、企業の人手不足を解消するため、主にパート主婦が1年間に働く目安とする年収103万を超えても働きやすくするため、平成29年度(2017年度)税制改正により配偶者控除額を見直す検討に入った。年収103万円、月額で考えると約8万5千円である。現在、多くのパート主婦たちは、この年収を超えないように就業時間を抑えて働いている。スーパーやコンビニ、飲食業などでは、人手が足りずパート主婦に就業シフトに多く入ってもらうようにお願いするが、パート主婦たちは、この年収103万円を超えそうになると就業を拒否する。パート主婦たちが、1年間に働く目安とする103万円という数字は、いったい何を根拠としたものなのであろうか。

 会社からの給与所得者(パート等を含む)は、毎月の給与から所得税が源泉徴収され、税金を滞納することはできない。また、国側も、事業者が個人にかかる税金を代行して徴収してくれるので、手間がかからない。これらの所得税徴収上の利点に加え、会社の勤め人は、会社に行くのにスーツを用意したり、靴を買ったりもしなければならない。車通勤の人は、車の減価償却もある。このように、会社に勤めるがゆえにかかる経費が存在している。これらの経費は人によって様々であり、これを給与所得から控除しようと思っても、どこまでが必要経費で、どこからが私費か区別することも難しい。そこで、給与所得者は、所得税を計算する際に、年収から65万円を控除するという仕組み(給与所得控除)があるのだ。

 さらに、日本で人間らしい生活をするための最低限度の収入には税金をかけないという考え方から、給与所得者のみならず全所得者に対して一律38万円を年収から控除する基礎控除という仕組みもある。つまり、給与所得控除65万円と基礎控除38万円の合計103万円までの収入は、所得税の計算上、収入額がゼロとみなされるのである。収入額がゼロであれば、パート主婦は夫の扶養家族となり、夫の所得税計算上や会社の手当などで優遇を受けられるということである。このため、多くのパート主婦たちは、これらのことを意識して年収103万円未満で働くように心掛けており、ここに年収「103万円の壁」が存在している。政府は、この壁が、労働者不足を招き、経済成長を鈍らせる1つの原因であるとし、年収150万円までは、夫の扶養家族となれるよう検討に入ったのである。

 給与所得者の控除額は、昭和49年(1974年)の税制改正で最低控除額(50万円)が導入され、その後、物価や所得の上昇に伴い、この最低控除額も徐々に引き上げられ、平成元年(1989年)に65万となり、平成7年(1995年)には基礎控除額も38万円に引き上げられた。つまり、平成7年(1995年)に給与所得控除と基礎控除の合計額が「103万円」になって以来、20年以上もこの金額は改正されていないのである。これに対して、平成7年(1995年)の全国平均最低賃金は、時給611円であったが、平成28年(2016年)には時給823円となっていて、パート主婦たちの時給は約35%もアップしているのである。都道府県別トップの東京都で見ると、平成7年に650円だった時給は、平成28年に932円となっていて、この間約43%もアップしている。平成7年当時の年収103万円相当を労働時間で換算すると、約40%も働いている時間は減少していると考えられる。最低賃金は、この20年で大きく上昇したのに、所得税の控除額は20年以上も見直されていない現状では、見直し検討開始も当然の結果であろう。

 しかし、今回の改正は所得税の控除額そのものを見直すという趣旨ではなく、年収150万円まではパート主婦が配偶者控除を受けられるようにするのみの改正のようだ。103万から150万円まではどのように取り扱うかは今後の検討で明らかになっていくであろう。なお、今回の改正ではパート主婦のみが取りあげられているが、16歳以上23歳未満の学生なども扶養控除の対象である。大学生でアルバイトをしている学生もこの「103万円の壁」は適用される。アルバイト学生も、年間103万円を超える収入があると親の扶養控除がなくなり、親に多大な税額が追加徴収されることになるので、注意が必要である。