2014年3月17日 (月)

ヴェルボトナル研究所活動報告(6)

(2)指導・研究スタッフ

開設時(1998年4月)の研究所のスタッフはロベルジュ所長と原田英一主任指導員でしたが、事務および運営に関しては事務局の方々に全面的に支援していただきました。時には、活動の方策などでそれぞれ意見が異なり、一致点を見出すのに難しい事柄や、容易に解決策の見出せない問題もありましたが、焦らずに議論を重ね解決を図っていきました。

すべて試行錯誤と言ってもよい様な状況でしたが、少しずつ研究所の体制も整い、活動の歯車が回転していきました。そして開設から2,3か月で、指導面での活動が、思いのほか順調に拡がりを見せ始めました。研究所での指導を希望される生徒さんたちが、予想を上回る勢いで集まり、増え始めたのです。

9月には、指導担当として、若い女性アシスタントを一名迎えることとなりました。彼女は大変熱心に、また精力的に業務に取り組んでくださいました。その穏やかな優しい態度に幼い生徒さんたちも素直に安心して指導を受けていました。また保護者の方々からの信頼も得て、いろいろ難しい相談を受けるようにもなっていきましたが、常に冷静に丁寧に応じ、研究所の欠かせない戦力となりました。この頃すでに研究所の指導スタイルが確立されていました。子どもに優しい指導法です。易しいところから少しずつ無理なく改善させていく指導法です。

1999年(平成11年)10月に原田主任研究員(指導員という名称は8月に研究員という名称に職務内容に合わせて変更されました)が、ザグレブのスヴァグ・センターに3ヶ月程ヴェルボトナル法の研修に出かけました。研修ではヴェルボトナル理論の中核である音声学や医学面の基礎を主に学びました。ザグレブでの研修で得たものは大きく、研究所のその後の活動の理論的な基盤となり、適切な指導技法を生み出す基となりました。

生徒数も増え、順調に進んでいた2004年(平成16年)3月に、献身的に働いてくださっていたアシスタントの女性が、ご家庭のご都合で退職されることになりました。後任者は適当な人材が見当たらず、人員の補充は行われませんでした。

また、ほぼ同じ時期に、ロベルジュ所長が健康を害され、またご高齢ということもあり、東京から館林まで通っていらっしゃることが少しずつ難しくなってきました。2004年の秋頃には、仕事場を館林の研究所から、四ツ谷の上智大学内のSJハウスに移されました。ロベルジュ先生は、四ツ谷に仕事場を移された後も、研究所の顧問として、2010年(平成22年)までヴェルボトナル研究所の活動に寄与、貢献されました。なお、顧問を退かれた後、今現在も、先生は研究所の将来を展望され、貴重なご意見を寄せて下さっています。

原田主任研究員が、一人で指導と研究に当るようになった2005年頃より、研究所の活動領域が小さくなって行った観があります。やや意識的に、研究所にて指導する生徒の人数も抑え気味にして、指導対象を聴覚障害児に絞るようにしていきました。構音障害児や発話障害児の指導を抑制したために、それらの障害に関わる指導法の研究に進展が期待できなくなるように思われましたが、聴覚障害に焦点を絞ったことで、かえって聴き取りと発音のつながりに関して、深く理解することができるようになりました。これは予想外の収穫でした。

ロベルジュ先生からは、常々、言葉の障害の根本原因は「聴き取り」であり、聴覚障害を学ぶことで、構音障害や発話障害など他の言葉の障害を広く理解することができ、指導上のヒントも見つかるものだ、と言われていましたが、研究所の指導技法の進展を振り返ると、正にそのようになっていったと思われます。

 

つづく

2014年2月26日 (水)

ヴェルボトナル研究所活動報告(5)

3.ヴェルボトナル研究所開設

(1)開設準備と開所式

上智大学に設けられていた「聴覚言語障害研究センター」は、所長であったロベルジュ教授が定年を迎えられた1996年に閉じられました。19年間の活動でした。そのあいだ毎年発行されてきた「言調聴覚論研究シリーズ」も第26巻をもって終了しました。第26巻には、最終巻ということで、それまでに日本で発表されてきたヴェルボトナル関係の論文や資料のタイトル、著者名、発表年などが、一覧できるかたちに整理され、紹介されています。ロベルジュ教授は、日本でのヴェルボトナル法の研究や指導に最終的な幕が下ろされたと、思われたようです。

しかし、その2年後、19984に群馬県館林市の関東学園に、ロベルジュ教授を所長として、新たにヴェルボトナル研究所が開設されたのです。きっかけは関東学園の理事長と副理事長の積極的な支援でした。ロベルジュ教授と以前より親しかった理事長、副理事長は、ロベルジュ教授の研究されているヴェルボトナル理論の確かさと、その技法の実効性に以前から気づいておられたようです。

1997年には、副理事長がロベルジュ教授とともにクロアチア共和国ザグレブ市のSUVAGセンターを視察され、ヴェルボトナル理論発祥の地での指導の様子を、またその効果を実際に目で確認されてこられました。僅かな滞在期間の中で、SUVAGセンターがザグレブ市内の普通小学校と協力関係を結んで展開されている難聴児の統合教育の実態なども視察されたそうです。その視察旅行の結論として、ヴェルボトナル研究所開設の方針が固められたようです。そして、理事会での決議を経て、19982月頃には、具体的に、関東学園の館林キャンパスにヴェルボトナル研究所の開設のための工事が始まりました。4月には、館林キャンパスの教職員寮の一階の2部屋に、床下暖房の装備された研究室及び指導室が完成されました。準備の段階では、事務局の方々がさまざまな面でご苦労され、指導機器のザグレブからの輸入や、指導室の装備、また近隣の学校などへの案内などにもあたってくださいました。

19985月6日、ヴェルボトナル研究所の指導室にて理事長、副理事長、短大学長、附属高等学校校長等のご臨席のもと、希望と若干の好奇心の入り混じった雰囲気のなか、研究所の開所式が執り行われました。

小一時間ほどの開所式の後には、参加された方々のための「研究所見学」の時間が設けられました。ヴェルボトナルの理論や技法についての質疑応答、また指導機器の使用法についての質疑応答などが予定の時間を超えて交わされ、ロベルジュ所長も応対に大忙しでした。実際に機器を試用される方もいらっしゃり、研究所への期待の高さが感じられました。

事務局の方々の完璧な準備もあり、開所式が予定通り、無事に済んだことで、先々に対しての幾分の安堵感も生まれ、また研究所の活動の発展も予感されました。実際、研究所はその後順調にスタートすることができました。

この関東学園内におけるヴェルボトナル研究所の開設は、決して派手さを伴うものではありませんでしたが、新聞等でも紹介され、聴き取りや発話に問題を抱える子どもたちへ効果的な言語指導を積極的に行っていくという研究所の意思表明にもなりました。

 

つづく

 

2014年2月13日 (木)

ヴェルボトナル研究所活動報告(4)

(3)日本への導入

 ヴェルボトナル研究所の所長であったロベルジュ教授(カナダ国籍)は、上智大学の名誉教授でもあり、前項で述べましたスヴァグ・センターとの交流を50年ほど続けていらっしゃいます。ロベルジュ教授は、ヴェルボトナル理論の提唱者であるグベリナ教授から「理論を最も理解している研究者」と言われています。ロベルジュ教授がヴェルボトナルの理論と技法を日本に紹介されたのは、上智大学の外国語学部フランス語学科で教鞭を取っておられた時です。

1970年代に、フランス語の発音の指導法を求めて、サバティカル(研究のための長期休暇)を利用され、フランスに行かれた際に、ロベルジュ教授はヴェルボトナル理論に出会われたそうです。当時、フランスに旧ユーゴスラビアからの言語教育の専門家の一団がフランス政府の招きで来ていて、発音指導法などについての講演会や研修会が開催されていたそうです。そこで知り合った旧ユーゴスラビアの講師らの勧めで、ロベルジュ教授は、日本への帰国の際に、クロアチアの首都ザグレブに寄って、ヴェルボトナル理論の実践現場を見学して来られました。

ただ、ザグレブでは、予想とはやや異なって、外国語教育もさることながら、聴覚障害児への言語指導が熱心に行われていたそうです。ロベルジュ教授は、障害をもった子どもたちへの言語教育活動に深く感動し、日本へ、フランス語の発音指導法として、また聴覚障害児の聴き取りや発音などの指導法としてヴェルボトナル理論を導入しようと決意されたそうです。その思いは、1977年に、上智大学聴覚言語障害研究センターの開設というかたちで、実を結びました。

その後、その研究センターから毎年のように「言調聴覚論(ヴェルボトナル理論の日本語訳)研究シリーズ」が発行されるようになりました。当初はザグレブやフランスで発表されたヴェルボトナル関連の論文の翻訳発表や、それを補足説明するかたちの論文の発表が主でした。もちろん、研究センター独自の研究論文なども、ロベルジュ教授らの手によって掲載されました。

しかし、上智大学の研究センターはロベルジュ教授が定年で退任された年に残念ながら閉鎖されました。上智大学での19年間の研究活動が1996年に閉じられたのですそれから2年間ほど、ロベルジュ教授の言葉を借りると「ヴェルボトナルの理論と技法の危機」となった空白の期間が訪れます。

しかし、幸いなことに、これもロベルジュ教授の言葉ですが、「ヴェルボトナルの理論と技法が不死鳥のように甦った」のです。1998年に、群馬県館林市の関東学園にヴェルボトナル研究所が、上智大学時代の成果を引き継ぐ形で開設されたのです。「言調聴覚論研究シリーズ」の発行も、第27巻から関東学園ヴェルボトナル研究所に引き継がれました。「言調聴覚論研究シリーズ」は36巻まで発行されました。そして、そこで小休止となっています。小休止の理由は、研究所のその後の研究論文等が関東学園のヴェルボトナル研究所のホームページに発表され始めたからです。将来的には、ホームページで発表された文章は、「言調聴覚論研究シリーズ第37巻」としてまとめられ、発行される予定です。

 

つづく

2013年4月 2日 (火)

ヴェルボトナル研究所活動報告(3)

(2)スヴァッグ・センターとの交流

ヴェルボトナル法の本部とも言うべきPolyclinika “SUVAG”の英語での名称は、Polyclinic SUVAG for the rehabilitation of speech and hearingと長いのですが、クロアチア国内と同様に、海外でも関係者の間では、短く「SUVAGスヴァッグ」と呼ばれています。現在では、この施設は、ザグレブ市の所有となっていて、ザグレブ市やクロアチア政府の社会厚生省や教育省などから多額の財政支援を受けているようです。

ザグレブの市民にとっては、「言葉に関する特殊な学校・病院」といった存在です。聴覚や言語に問題をかかえている子どもが医療を受けながら学習する学校であり、耳科専門のクリニックが敷地内に併設されている地域医療の一施設でもあります。スヴァッグの生徒のみならず、一般の市民も診断や治療を受けることができます。また、国家的なプロジェクトとして、人工内耳の研究センターも設けられています。

スヴァッグには、また一般の市民向けの外国語講座も設けられています。授業は主に夕刻から始まります。修了証書はかなり権威のあるもので、クロアチア国内での就職に役立つようです。

スヴァッグの幼稚部には、最近まで、健聴児が英語やドイツ語で教育を受けるクラスが設けられていました。そのため休み時間などには難聴児と健聴児の交流が自然に図られるシステムが確立していました。しかし、現在は、法律上の制約があって、そのような統合教育のシステムの自由な運営が許されなくなり、難聴児と健聴児の自然な交流の場が閉ざされてしまいました。独立後の法律や条令の整備によって、かえって残念な結果が生じてしまったことになります。

幼稚部を修了した子どもたちは、通常、併設されている小学部へ、そして中学部へと進んでいきますが、聴き取りや発音面で改善の見られた生徒たちは、市内の普通小学校や中学校に通えるように配慮されています。それも言語聴覚士が付き添うという手厚いかたちで行われています。いわゆる統合教育が市の教育政策として根付いているのです。付き添いの指導員は、放課後も統合先の学校内で学科の補習を行ったり、英語を教えたりしています。

同じスラブ語系のロシアやウクライナには、ザグレブのスヴァッグ・センターに倣った施設が幾つか設立されています。特にロシアには西のモスクワから東のヤクーツクまでの間に30を超える数の、ヴェルボトナル法を採用したセンターや教室が設けられています。国からの財政的な補助も充実しているようです。

フランス、スペイン、アメリカなどには、ロシアのような公共的なヴェルボトナルの施設はありませんが、聴覚リハビリや語学教育の研究者や教育者が、スヴァッグ・センターを訪れ、聴き取りや発音の指導や授業の様子などを視察したり、研修を受けたりなどして、友好・協力関係を築き、自国でヴェルボトナル理論と技法の実践と普及に当っています。

関東学園ヴェルボトナル研究所もその一つに数えられます。ヴェルボトナル研究所の元所長であるロベルジュ先生は、スヴァッグ・センターと40年以上もの間、互いに協力し合う関係にあります。

具体的には、スヴァッグ・センター等で発表されたヴェルボトナル関係の論文が、ロベルジュ先生によって英語や日本語に翻訳されていることが挙げられます。また、2年毎に開催されているヴェルボトナル法の国際シンポジウムで、関東学園ヴェルボトナル研究所の発表してきた「事例紹介」などが、その質や内容の深さで常に注目を浴びていることも挙げられます。2003年には、ローマで開催された国際シンポジウムに合わせて、ロベルジュ教授がフランス語に翻訳されたグベリナ教授の論文集が出版され、会場で販売されました。また、2013年の5月には、ザグレブで開催されるヴェルボトナル法国際シンポジウムで、その英語版が紹介される予定です。この英語版もロベルジュ教授が翻訳、編集されたものです。なお、日本語版は、2012年に上智大学からロベルジュ先生の編集で発刊されています。ヴェルボトナル研究所は、スヴァッグ・センターにとっても、極めて重要なアジアの拠点であり、今後も活発な活動が期待されています。

関東学園ヴェルボトナル研究所の指導や研究は、スヴァッグ・センターを参考に展開されて来ていると言っても過言ではありません。今後も、相互関係をさらに密にして、ヴェルボトナル理論と技法の深化、発展に寄与していきたいものです。

つづく

2013年3月 4日 (月)

ヴェルボトナル研究所活動報告(2)

1.ザグレブ言語教育理論

(1)ヴェルボトナル理論の誕生

ヴェルボトナル理論とその技法は、今から60年ほど前に、中欧のクロアチア共和国で誕生しました。クロアチア共和国は、アドリア海を挟んで、イタリアの対岸に位置します。1991年に旧ユーゴスラビア連邦から独立を宣言した、九州の1.5倍ほどの面積の小さな国です。独立に至るまでの戦争では、多くの子どもが戦争孤児となったようです。また、学校で十分に教育を受けられなかった子どもの多かったようです。母国語の学習も不十分な子どもも、相当の数にのぼったようです。

クロアチアは経済規模も小さく、外国に出て働き、本国の家族に送金をする人々もかなりいるようです。そのような人々にとっては、生活のための収入を得る手段として、外国語の習得が重要となっています。そのため小学校から、外国語の読み書きのほかに、発音も徹底的に教える必要があります。そのような政治、教育、経済の状況下でヴェルボトナル理論は誕生し、発展してきています。

ヴェルボトナル理論の提唱者であるグベリナ教授はクロアチアの南部、アドリア海に面したシベニックに生まれました。1935年ザグレブ大学(フランス語・ラテン語専攻)を卒業され、1939年にパリのソルボンヌ大学で博士号を取得されました。その後、「話し言葉の言語学」の道を拓くことになったようです。

グベリナ教授は、研究や教育活動の初期より、言葉のリズムやイントネーションを重視していました。生きた人間の日常生活でのコミュニケーションの基となる、実際的かつ正しいフランス語を教えることをめざし、構音器官の筋肉と身体の筋肉の連動性や、発話の際の筋肉の緊張と弛緩の変化に注目していました。ヴェルボトナル理論の起源です。

ヴェルボトナル理論は、「ヴェルボトナル法」と呼ばれる聴覚言語障害児(者)を対象とした言語教育と、「スガッヴ(SGAVStructuro Global Audio Visual)方式」と呼ばれる、健聴者(聴覚言語障害児(者)も含む)を対象とした外国語教育の二本立てとなっています。およそ関連性が無いと思われる分野の教育メソッドが、一つの理論から出ているのです。そのようなことからも、ヴェルボトナル理論を支持する言語教育者や医師などにより、欧州やロシアなどで、極めてユニークな活動が展開されているのです。

年譜に拠れば、グベリナ教授は、1951年から1983年までザグレブ大学文学部で教鞭を取っています。その間、発音研究所なども学内に創設しています。その所長を長年務めていらっしゃいました。

1961年には、グベリナ教授の尽力で、クロアチア政府により、ヴェルボトナル理論の研究と実践の場として、スヴァッグ(SUVAG=Système Universel Verbotonal D’audition Guberina)・センターが開設されました。スヴァッグ・センターは、現在、ポリクリニカ・センター“スヴァッグ”(Polyclinika Center “SUVAG”)と名称が改められています。聴覚障害児の聴き取りや発音の指導、言語障害児の言葉の教育、そして聴覚言語障害児(者)のみならず、健聴な子どもや大人をも対象とした外国語教育が展開されています。

なお、ヴェルボトナル理論の構築にはパンシーニ教授(医学)の協力が極めて重要であったようです。パンシーニ教授もザグレブ大学の教授で、グベリナ教授の友人です。パンシーニ教授はスヴァッグ・センターにおいても、長い間、研修会などでヴェルボトナル理論の解説に力を尽くされていました。ヴェルボトナル理論の医学面の中心人物です。関東学園ヴェルボトナル研究所の研究員もパンシーニ教授から直接ヴェルボトナル理論の医学的な面について指導を受けています。ヴェルボトナル理論の特徴は、音声学に加えて、聴覚学脳神経科学など最新の医学の知見が盛り込まれている点であると思われます。ヴェルボトナル理論は、医学の進歩とともに進歩、発展、深化しているとも言えます。

つづく

2013年2月 6日 (水)

ヴェルボトナル研究所活動報告(1)

ヴェルボトナル研究所活動報告(1)

はじめに

関東学園ヴェルボトナル研究所は、平成10年に関東学園の館林キャンパスに開設されました。今年度(平成24年度)で15年目となります。これを機に、ヴェルボトナル研究所のこれまでの活動について、その主なものを研究、指導、普及の項目に分けて、連載のかたちで、ご報告したいと思います。

研究所の活動成果を記す前に、ヴェルボトナル理論の提唱者について、またその名称の意味や由来、日本への導入について、簡単に述べておきたいと思います。

ヴェルボトナル理論は、聴覚や脳の機能を組み入れた言語教育理論です。現在、母国語や外国語の教育理論として、また聴覚言語障害児の言語教育理論として欧米で知られています。発祥地は中欧のクロアチア共和国です。

この理論が提唱されたのは、今から60年ほど前の1950年代で、提唱者はクロアチア共和国(旧ユーゴスラビア連邦)の首都にあるザグレブ大学のペタル・グベリナ教授19132005年)です。グベリナ教授は音声学者であり、またフランス語の教授でもありました。理論の構築には、グベリナ教授の他に、教授の友人であるパンシーニ教授(医師)が、最も重要な協力者として、深く関わっています。パンシーニ教授は、耳の医学的な機能のみならず、脳や身体の働きを重要視されていました。

ヴェルボトナル(Verbotonal)という名称は、グベリナ教授の編み出した独特の聴力検査法に由来します。ヴェルボの意味するところは「語音(話し言葉)」であり、トナルの意味するところは「純音(健康診断の際の検査音)」です。つまり、耳の検査で一般的に用いられている「語音聴力検査」と「純音聴力検査」の組み合わされた聴力検査法であるのです。この聴力検査法の特徴は、話し言葉の大きさと高さに対する聴力を的確に調べられるという点にあります。検査に用いられる音が、人工的な純音ではなく、人間が日常のコミュニケーションで用いている自然な語音であるということは、言葉に対する耳の反応がより正確に測れるということです。

この検査法は、現在でも独創的であり、画期的であるのですが、検査装置の設定がやや複雑ということもあって、残念ながらクロアチア以外では、一般には普及していないのが実情です。関東学園のヴェルボトナル研究所でも、残念ながら、一般的な語音聴力検査法と純音聴力検査法を用いている状況です。ただ、研究所では、語音に対する聴覚障害児の聴き取りを正しく評価する目的で、やはりグベリナ教授が考案された音声増幅周波数フィルター機器を、聴き取りや発音指導の際に、活用しています。

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ヴェルボトナル理論と技法が日本に紹介されたのは、1970年代です。当時、上智大学外国語学部フランス語学科で教鞭を取っていらっしゃったクロード・ロベルジュ教授によって、「ザグレブの言語教育理論」として日本に紹介されました。ロベルジュ教授の招きで、グベリナ教授ご自身、来日され、上智大学等でヴェルボトナル理論と技法を紹介する講習会が開催されました。

教育の現場では、上智大学のフランス語学科の学生の発音矯正のためのメソッドとして授業で用いられました。それと同時期に、上智大学内に開設された聴覚言語障害研究センターにて、聴覚障害児を対象とした言葉のリハビリ指導が、ヴェルボトナル理論に基づいて始められました。

ヴェルボトナルという呼び名はフランス語での発音であり、VerbalTonalの合体した造語です。当初は「ヴェルボ・トナル Verbo-Tonal」と二つに分かれて記述されていました。この名称は、やがて理論や技法をも含んだ総称として用いられるようになり、最近では、「ヴェルボトナル Verbotonal」として、一語で表記されることが多くなってきました。

また、日本では、この理論が紹介された当初、「言調聴覚論」という訳語が充てられていましたが、最近では、「ヴェルボトナル理論」と呼ばれることが多くなってきているようです。それでも、「言調聴覚」という訳語は、「言調聴覚論学会」あるいは「言調聴覚論研究シリーズ」というところで、引き続き用いられています。

なお、海外でも、日本でも、ヴェルボトナル理論や技法の総称として「ヴェルボトナル・システム」と呼ぶ場合もあります。「システム」とは「方式」いった意味です。ザグレブ市内などでは、一般の方でも、クロアチア語の「システマ」という語のみで、ヴェルボトナル理論とその技法であることを理解されるほどです。

つづく

2013年1月11日 (金)

予告

ヴェルボトナル研究所が開設されて、今年で、15年目となります。

この機に、これまでの研究、指導、普及に関する活動成果を、一旦総括する意味で、研究所のホームページの「ブログ」にて、「活動報告」として発表することといたしました。

「活動報告」は、連載のかたちで、1年ほどかけて発表していきたいと思っています。

第1回目の「活動報告」は、平成25年1月の予定です。

2012年3月21日 (水)

絵カード発話(12)

・自発話の練習です。
・一行ごとに、先生(ママ)が言って、続いて生徒(幼児)が復唱します。
・先生も生徒も文字を見ないで練習します。
・気持ちや感情を声に込めてください。
・リズムやイントネーションを大切にしてください。

サクラの絵カードを用意して練習開始です。

例1 みて~
    ママ~
    きれい
    きれいだね

例2 ねえ、パパ~
    みてごらん
    サクラだよ
    ほら
    いっぱい
    まんかいだね              

例3 みて~
    そらが
      ピンクだよ
    ぜ~んぶ
    さくら
    すごいね~
    あ~
    ふってきた
    ゆきみたい

2012年3月 9日 (金)

絵カード発話(11)

・自発話の練習です。
・一行ごとに、先生(ママ)が言って、続いて生徒(幼児)が復唱します。
・先生も生徒も文字を見ないで練習します。
・気持ちや感情を声に込めてください。
・リズムやイントネーションを大切にしてください。

時計の絵カードを用意して練習開始です。

例1 とけい
    みせて
    なんじ?
    いま
    なんじなの?

例2 へんだよ
    はりが
    とまってるよ
    でんち
    ないんじゃない?
    きれちゃったんじゃない?             

例3 あたし
    じゅんびできた
     ママ~
    いそいで~
    はやくして~
    なにしてんの?
    ようちえん
    おくれちゃうよ
    はやく~
    ママ~

2012年2月27日 (月)

絵カード発話(10)

・自発話の練習です。
・一行ごとに、先生(ママ)が言って、続いて生徒(幼児)が復唱します。
・先生も生徒も文字を見ないで練習します。
・気持ちや感情を声に込めてください。
・リズムやイントネーションを大切にしてください。

カメラの絵カードを用意して練習開始です。

例1 とるよ~
    みんな
    わらって~
    パチッ

例2 とりた~い
    ぼく
    しゃしん
    とりた~い
    どこおすの?
    ここ?              

例3 ママ~
    とって~
     あたしも
    とって~
    かわいくね
    だいじょうぶ?
    ママ
    とれるの?
    ちゃんと
    とってよ